二十日鼠と人間 Of Mice And Men (1992)

We have a dream. Someday,
we’ll have a little house and a couple of acres. A place to call home.

John Malkovich as Lennie Small and Sherilyn Fenn as Curley’s Wife
Of Mice And Men

「二十日鼠と人間」(1992年)
「エデンの東」の作者として知られるアメリカのノーベル賞受賞作家John Ernst Steinbeck(ジョン・スタインベック)の名作を Gary Sinise(ゲイリー・シニーズ)が監督し、出演もしたヒューマンドラマです。 「二十日鼠と人間(ハツカネズミとニンゲン)」の映画化は2度目で、オリジナルは1939年にLewis Milestone(ルイス・マイルストン)監督が、1937年発表当時ベスト・セラーだったJohn Ernst Steinbeck(ジョン・スタインベック)の小説「はつかねずみと人間たち」を映画化しています。 人間の絶望をテーマにしたスタインベックの簡潔にして泣ける短篇「はつかねずみとおとこたち、ハツカネズミと人間、二十日鼠と人間」というのは”人間とは馴れる動物である”と言ったドストエフスキーの人間観に類似しているのでしょうか。 人間の何が正常なのか、人間らしい人間とは何か。 人間は神に代われるのか。 そう、ただ、そうするしか仕方がなかったのだ。 ちなみにスタインベックは小説の題名を1785年にスコットランドの詩人であるRobert Burnsが書いた詩「To a Mouse [on turning her up in her nest with the plough]”から取ったのだとか。 人間もネズミも最後には死ぬことは同じだが人間はそのことを知っている。 スタインベックはレニーを弱い者としてネズミに例えているのではないか。

Lennie Small(レニー・スモール)という名前の大男は小さな二十日鼠を可愛がっていたほど優しい人間なのに怪力が仇となり愛する生き物を死なせてしまうのです。 ページトップの画像はレニー・スモールが雇い主のカーリーの妻の髪を子犬を可愛がるように愛しんでいるシーンですがこの後に悲劇が起こります。(配役上カーリーの妻に特定の名前はなく単にCurley’s Wife)
愛情とは? う~ん、殺してしまうってのも友情か。 ジョージの心中を察すればこそ切ない結末。 果たしてジョージの決断は問題解決になるのか多分に感情的なものなのか。
George Milton kills Lennie Small with LOVE – YouTube

愛してはいるが厄介な人間がいなくなるとどんな気持ちになるか? Johnny Depp(ジョニー・デップ)と幼きLeonardo Wilhelm DiCaprio(レオナルド・ディカプリオ)が出演した1993年の「What’s Eating Gilbert Grape(ギルバート・グレイプ)が思い浮かびます。
一方、愛ゆえに死に至らしめる場合があります。 1975年の「One Flew Over the Cuckoo’s Nest(カッコーの巣の上で)」では植物人間と成り果てたJack Nicholson(ジャック・ニコルソン)が演じる囚人を逃走仲間のチーフという男がせめてもと窒息死させましたが、2004年のクリント・イーストウッド監督の「Million Dollar Baby(ミリオンダラー・ベイビー)」では試合で全身不随となった愛弟子の女ボクサーを安楽死させるというストーリーもあります。(ちなみに安楽死を認めているのは米国のオレゴン州だけだとか)

1930年代の不況時代の西部で農場を渡り歩く飯場暮らしの男たち、John Malkovich(ジョン・マルコヴィッチ)演ずる知恵遅れの大男とゲイリー・シニーズ演ずる小さいが働き者のGeorge Milton(ジョージ)との友情(愛情)物語です。 哀れな結末を迎える犬の持ち主のCandyにはRay Walston(レイ・ウォルストン)、二人を雇う農場主のCurley(カーリー)にはCasey Siemaszko(ケーシー・シマスコー)、そして災難な農場主の妻にはSherilyn Fenn(シェリリン・フェン)で、退屈しのぎに男たちを誘惑するような女を演じました。 ちなみにキャンディを演じたレイ・ウォルストンはミュージカルもこなす芸達者で、助平なディーン・マーチンと下品なキム・ノヴァクが共演し、ビリー・ワイルダー監督の転落のきっかけともなった1964年の悪趣味コメディ「Kiss Me, Stupid(ねえ!キスしてよ)」で作曲家で嫉妬深い夫役でした。 なんとその妻役はワイルダー監督作品の常連ジャック・レモンの奥さんフェリシア・ファーが演じていました。(オリジナルはジーナ・ロロブリジーダが出演した1952年の「Moglie per una notte(意味は一夜の妻)」)

そして映画の中で犬を可愛がる老人を演じたレイ・ウォルストンを私が初めて見たのは1958年のミュージカル映画「South Pacific(南太平洋)」で、Luther Billis役のレイ・ウォルストンはRichard Rodgers & Oscar Hammerstein II(ロジャース&ハマーシュタイン)の曲で”There is Nothing Like a Dame“を主役のMitzi Gaynor(ミッチー・ゲイナー)と一緒に歌って踊って大好評でした。 エミー賞受賞舞台俳優のレイ・ウォルストンは「Paint Your Wagon(ペンチャー・ワゴン)」や「Star Trek: Voyager(スター・トレック/ヴォイジャー)」など100本以上の映画に出演しましたが、この「二十日鼠と人間」がメジャーな映画出演の最後だったようです。(稀な病気のエリテマトーデス(狼瘡)とかでで6年間闘病後2001年に86歳で亡くなりました)

Sherilyn Fenn
1988年にMilla Jovovich(ミラ・ジョヴォヴィッチ又はミーラ・ヨヴォヴィッチ)がデビューした「Two Moon Junction(トゥー・ムーン)」でRichard Tyson(リチャード・タイソン)と目玉が飛び出そうなほど激しいラヴシーンを演じたシェリリン・フェンは実に魅惑的な女優で、当時交際のあったMulholland Dr.(マルホランドドライブ)の監督として有名なDavid Lynch(デヴィッド・リンチ)が手掛けた1990年~1991年の「Twin Peaks(ツイン・ピークス・シリーズ)」でセクシーなオードリーを演じて話題を呼びました。(シェリリン・フェンがカバーを飾るアンジェロ・バダラメンティ音楽のサントラ「Twin Peaks: Fire Walk With Me」は要チェック ASIN: B00JBJWILA) 1998年から放映されたTVコメディシリーズの「Rude Awakening」にも仕事にあぶれて子守のバイトをするアルチュウの女優役で出演しているそうです。 ツインピークスの放映中の1993年にリンチ監督の娘であるJennifer Chambers Lynch(ジェニファー・リンチ)が監督したBoxing Helena(ボクシング・ヘレナ)で英国俳優のJulian Sands(ジュリアン・サンズ)と共演して話題となりました。 題名の”ボクシング”とはスポーツのことではなく”箱詰め”の意味で、美女を演じたシェリリン・フェンは異常な医師によって両足及び両手を切断されてまで監禁されるという怖い妄想映画です。
シェリリン・フェンは「二十日鼠と人間」制作の前辺りにはジョニー・デップと交際が有り、メロメロになったジョニー・デップが1986年の「Platoon(プラトーン)」で使用したヘルメットにはシェリリン・フェンの名前が書かれていたそうです。 とはいえジョニー・デップはその前の恋人のWinona Ryder(ウィノナ・ライダー)の時は刺青をしたそうですが、ジョニー・デップの刺青の入れ方はまるで覚書をする「Memento(メメント)」のようかも。 その後はVanessa Paradis(ヴァネッサ・パラディ)とパートナー関係となり子供もいるそうです。 そのジョニー・デップと「インタープリター」のショーン・ペンとジョン・マルコヴィッチとはパリのMan Rayとかいうレストランの共同経営者なんだだとか。 ちなみにジョン・マルコヴィッチというと私が初めて観たのは1984年の「Places in the Heart(プレイス・イン・ザ・ハート)」での盲目の痩せ男です。 ヒロインが風呂を使っているのに気づかず熱弁をふるって手を振り下ろしたところお湯を叩いて状況を知り戸惑う演技が秀逸でした。
その”Man Ray”というパリのレストランはネズミが主人公のアニメ「レミーのおいしいレストラン Ratatouille」に出てきます。

video

「二十日鼠と人間」のトレーラー
Of Mice And Men Trailer – IMDb
Of Mice And Men – YouTube

ゲイリーとマルコビッチの二人はゲイリー・シニーズが1976年に設立したシカゴのSteppenwolf Theatre(ステッペンウルフ劇場)にジョン・マルコビッチが参加して以来の友人同士なんだそうで、「二十日鼠と人間」に出演したシェリリン・フェンがこのコンビを絶賛していたそうです。
Being John Malkovich(マルコビッチの穴)などの代表作があるマルコヴィッチは「二十日鼠と人間」や2001年の「Ghost World(ゴーストワールド)」でプロデューサーのRuss Smith(Russell/ラッセル・スミス)と、「ゴーストワールド」で共同プロデューサーだったLianne Halfon(リアン・ハルフォン)と3人でMr. Muddプロダクションを共同経営しているそうです。

1994年の「Forrest Gump(フォレスト・ガンプ)」で両足を失ったダン・テイラー小隊長(中尉)を熱演してアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたゲイリー・シニーズは1995年の「アポロ13」では「チャイナ・ムーン」のエド・ハリスと共に素晴らしい演技を見せ、1996年のメル・ギブソンが主演した「Ransom(身代金)」で誘拐された少年がお漏らしをするほど不気味な犯人を怪演しましたが、2000年の「レインディア・ゲーム」での悪役はいただけません。
☆ゲイリー・シニーズの英語のファンサイトはHonoring the Talent of Gary Sinise

ジョン・スタインベックはアメリカの恐慌時代に社会派作家として人気があり、1939年に発表した最高傑作「The Grapes of Wrath(怒りの葡萄)」でもアメリカにおける1930年代の大不況を背景にしています。 この作品では仕事を求めて干ばつのオクラホマから
カリフォルニアへ向かう農民一家の苦しい生活を描いていますが1940年にHenry Fonda(ヘンリー・フォンダ)主演で映画化されました。その時代には不況に加え干ばつにも襲われた農民たちの中に家や家族を持たずに農園を渡り歩いて働く農夫たちが多かったそうです。

Of Mice And Men DVD

Of Mice And Men DVD
シニーズ&マルコヴィッチ」コンビの「二十日鼠と人間」2008年発売の廉価版DVD(カラー)
二十日鼠と人間

Of Mice and Men Soundtrack

Of Mice And Men Soundtrack
Of Mice & Men Original Soundtrack
映画「二十日鼠と人間」の音楽は映画音楽をたくさん手掛けているMark Isham(マーク・アイシャム)の作曲です。 1995年にリリースされたサウンドトラックCDにはマーク・アイシャムの音楽を演奏するKen Kugler(ケン・クーグラー)指揮のオーケストラで”The Train”から”George and Lennie”などストーリーを追った全22曲が収録されています。
マーク・アイシャムは「Kiss the Girls(コレクター)」や「From the Earth to the Moon(人類、月に立つ)」などの後も、2004年に「Crash(クラッシュ)」、2005年に「In Her Shoes(イン・ハー・シューズ)」、2006年に「The Black Dahlia(ブラック・ダリア)」と毎年のように話題作品の音楽を担当し続けています。
サントラの試聴はOf Mice And Men Soundtrack – Soundtrack.net

Of Mice And Men Book

Of Mice And Men Book
大門 一男・翻訳の文庫版「二十日鼠と人間」
画像は1953年発売の大門一男翻訳新潮文庫版「二十日鼠と人間」(ISBN-10: 4102101012)ですが、現在入手困難となりました。
1994年発売の大浦暁生翻訳の文庫版はハツカネズミと人間 (新潮文庫)

☆第一章がちょっと立ち読みできる「デジタル書店/グーテンベルク21」のはつかねずみと人間たち – 立ち読みフロア

ジョン・スタインベックの小説「はつかねずみと人間たち」の映画化は1939年に白黒作品の「Of Mice And Men(廿日鼠と人間)」として「The Strange Love of Martha Ivers(呪いの血)」のLewis Milestone(ルイス・マイルストン)が監督し、レニーにはLon Chaney Jr.(ロン・チェイニー・Jr)が、大男のジョージはBurgess Meredith(バージェス・メレディス)が演じました。
☆ちなみに原題の「Of Mice And Men」はスコットランドの作家Robert Burns(ロバート・バーンズ)の詩「To a Mouse(二十日鼠へ)」に由来しているそうです。(The best-laid schemes o’ mice an ‘men Gang aft agley) その題名での”of”は”〜について”という意味らしいです。 つまり、タイトルの意味は”ハツカネズミ(複数)と人間(複数)について”です。

ジョン・スタインベックの小説の映画化といえば1940年の「The Grapes of Wrath(怒りの葡萄)」や1955年の「East of Eden(エデンの東)」が有名ですが、ロシアのVictor Vicas(ヴィクトル・ヴィカス)が監督しJayne Mansfield(ジェーン・マンスフィールド)がストリッパー役で出演した何人かの乗客の人生を変えるロードムービー「Wayward Bus(気まぐれバス)」もありました。

Audio-Visual Trivia内のジョン・マルコヴィッチの出演映画
レディース・ルーム(マルコビッチが女性トイレを覗く映画)
アイアムキューブリック(マルコビッチがキューブリック監督になる映画)
マルコヴィッチの穴(マルコビッチのコピーがいっぱいの映画)
アートスクール・コンフィデンシャル(マルコビッチが美術教師になる映画)