チャイナ・ムーン China Moon (1994)

Benicio del Toro and Ed Harris in China Moon
Benicio del Toro as Lamar and Ed Harris as Kyle

チャイナ・ムーン」 (1994年)
製作会社が倒産のため数年はお蔵入りとなりようやく1994年に公開されたJohn Bailey(ジョン・ベイリー、もしくはジョン・ベーリー)監督のセクシー・サスペンス映画です。 「白い肌に秘められた殺意 魔性の女」というオドロオドロしいビデオの邦題に惑わされないで下さい。 白いドレスのファムファタルが登場してもさほどエロティックなシーンはありませんが、観客を飽きさせないかなり知的なネオ・ノワール映画です。 ジョン・ベイリー監督といえば私が観た映画に2005年にユマ・サーマンが出演した「The Producers(プロデューサーズ)」や2003年の全くのラブコメ「How to Lose a Guy in 10 Days(10日間で男を上手にフル方法)」がありますが「チャイナ・ムーン」が一番ドキドキ感があります。

出演はKyle Bodine(カイル・ボダインもしくはボーディン)刑事役にEd Harris(エド・ハリス)、その部下のLamar Dickey(ディッキー・ボーイ)には2005年の「Sin City(シン・シティ)」でジャッキー・ボーイを演じたBenicio del Toro(ベニチオ・デル・トロ又はベニシオ・デル・トロ)、魔性の女(ファムファタル)にはMadeleine Stowe(マデリーン・ストウ又はマデリーン・ストー)、そしてその夫役にCharles Dance(チャールズ・ダンス)です。

チャイナ・ムーンのあらすじ
最初のシーンは夜にモテルにもつれ込む男女二人と彼らの後をつけて激写する男。 そのシーンの後の夜の殺人現場に主人公のカイル刑事(エド・ハリス)は新米刑事のラマー・ディッキー(ベニシオ・デル・トロ)に捜査の指南をする。 どんな犯人でも手がかりとなるような馬鹿げたミスを犯すものだ。 この真面目そうなカイル刑事はある晩、フロリダの地元の酒場でひときわ目を引く白いドレスのイイ女レイチェル・マンロー(マデリーン・ストウ)を見かけて興味を抱きモーションをかける。 カイルがラマーと行ったこのラウンジのシーンでブルース歌手のSam Myers(サム・マイヤーズ)が歌う”Tell Me What I Want To Hear”の挿入映像、曲の題名がイミシン。
笑顔は見せどもなにやら訳ありな美女レイチェルはカイルに全く気がない素振りだったがそれもつかの間のこと。 自宅に戻ったレイチェルは夫の素行調査を依頼した探偵から会社の秘書との浮気現場の写真を渡されてショックを受けてしまう。 このことからレイチェルとカイルの二人は密会するようになる。 満月の夜にボートでデートした時、レイチェルはなぜかカイルが脛に装着した銃の口径を聞く。 China Moon
カイルの提案で湖に飛び込むことなるが、ためらいも無く衣服を脱ぐレイチェルに「おおっ♪」とカイルも続く。
レイチェルは人妻で夫は銀行のお偉いさん、だけど夫に愛人が出来たせいか家庭内暴力が絶えずレイチェルは身を守るための拳銃(9mm口径、軍用のパラベラム?)を手に入れたとカイルに話す。 カイル刑事はレイチェルに離婚を勧めるが、レイチェルは夫殺害を夢みて、アリバイまでも用意周到。
アリバイ工作の最中にマイアミのホテルから戻ったレイチェルは自宅でカッとなった夫のマンローに恐怖を覚え引き出しから銃を取り出すと本当に射殺してしまう。 パン、パン! 自己防衛か、計画殺人か、自首を拒むレイチェルはカイルに協力を求めます。 計画通りにするならホテルをチェックアウトしてこなかったから戻らないといけないレイチェル。 レイチェルの魅力の虜となってしまったカイルは「愛しているなら私を信じて」と言われて刑事としてあろうことか、警察に電話せず、やむを得ずとはいえレイチェルの犯した殺人の後始末を請け負うことになるのです。 夫の死体は二人が初めてデートした思い出の湖にドボン! さて、レイチェルの共犯者として犯人側となった殺人課の刑事カイルは経験を生かして馬鹿げたミスなど犯さないようにと指紋を消したり弾痕の壁穴を埋めるなど細心の注意を払った。 だがカイルの計画通りにレイチェルが夫の失踪を警察に届け出た時に担当となったカイルとディッキー刑事。 今回は平素より以上に格段の切れ味を見せるディッキー君は今回のマンロー事件の捜査で嘘をついているレイチェルのことを男を手玉に取る女とみなした。 夫の車には指紋が全く付いていないとか、レイチェルの供述に矛盾点があると指摘するなど、時を追うごとにベテラン刑事さながらで、狼狽する先輩刑事カイル。 おまけにマイアミのホテルでのレイチェルの不審な動きをディッキーから聞かされて確認するカイルだが埒が明かない。 危うしカイル。 いったい誰が嘘をついているのか。
あの夜に湖に車が止まっていたという情報を得た警察は遂に夫の死体を発見、検死の結果が死んだのは七日前、なんと!体内から取り出された一発の銃弾がカイルの拳銃と同じコルト38口径(0.38インチ)だった。 死体には二発の銃痕があったことから残りの一発を捜査した捜査官は細工した壁穴から銃弾を取り出したがそれもコルト38口径。(レイチェルが撃った銃なら9mmmのはず) だがシリアルナンバーはカイルの銃と合ってない。 むむ、そういえばレイチェルはカイルとの初デートの時にカイルの銃に興味があるようだった。 シリアルナンバーが違うから再び警察に来てくれと迎えに来たディッキーの車のダッシュボードの上を見たカイルは何でこのコンパス(方位磁石)がここに?とそれを凝視した。 レイチェルが持っていた浮気現場の写真から謎が解けた。 むむむ、カイルはいいカモだったのか。 夫の死で12億円を手にするレイチェルが殺したのは、一文も払わずに離婚しようとした夫(レイチェルが購入した9mmで死亡)と裏切り者(カイルの38mmで死亡)の二人。 「行かないで!」と叫ぶレイチェル、でも、カイルは戻らない。 ラストシーンにもChina Moon 確かにカモにしたけどファムファタールが本当に愛してしまった悲劇でした。 それにしてもレイチェルとディッキーの接点はどこだったのか。

Benicio del Toro
見方によってはちょっとブラビ似のプエルトリコ出身のベニチオ・デル・トロを初めて観たのは1989年にティモシー・ダルトンがジェームス・ボンドを演じた「Licence to Kill(007/消されたライセンス)」での南米の麻薬王の手下のダリオ役でした。 チャイナ・ムーンでは悪徳警官を演じた後、「ユージュアル・サスペクツ」の頭の切れる犯罪者、赤シャツのフェンスター役、2005年の「Sin City(シン・シティ)」ではゲスな警官ジャッキー・ボーイを演じます。 ですが、高潔(?)な犯罪者を演じた2003年の「21 Grams(21グラム)」では助演男優賞にノミネートされました。 ものすごい存在感と共に何気にセクシーなベニチオ・デル・トロの演技は2000年の「トラフィック」ではアカデミーの助演男優賞を受賞しています。

このシーンが印象的、いや、衝撃的! GET AWAY, GET AWAY!
Madeleine Stowe堅物の刑事をはめるつもりのファム・ファタルが…
暴力夫から美人妻を救い出したつもりの刑事が…
なんで、アイツがこんなに冴えてるんだろうという疑問が…
そして、真の黒幕はいったい誰…
☆ちなみにページトップの画像はマンロー事件の検証で湖の底から引き上げられた死体の靴底に付いたガラス破片を指摘するディッキーと半ば呆然とするカイル、奥は検死官。

アメリカでは1994年3月公開でしたが、日本では劇場公開なしです。
videoマデリーン・ストウの夫射殺シーンが観られる「チャイナ・ムーン」のトレーラーはChina Moon Trailer – Imdb
チャイナ・ムーンは遠景ですが全裸シーンがあるためR指定です。

タイトルの「China Moon」は、主演の二人、刑事のカイルを演じたエドハリスと夫の暴力に耐えるレイチェルを演じたマデリーンストウが初めてデートする晩に湖上に出ていたのが満月のことです。 カイル刑事は祖母が満月が中国の大皿のようだからと”チャイナ・ムーン”と呼び、この月は人々を惑わせるのだとレイチェルに話します。 実際にこのカップルは湖で衣服をかなぐり捨てて泳いだのです。
☆タイトルのChina Moonの意味が気になる。 皿の月。蓮花をモチーフにした優雅なボンチャイナの皿のことで、満月、つまり何か変なことが起こるという意味でもあるようです。(狼男とか?) 他には蓮の花のことも言うようで、中国では君子の象徴、古代エジプトでは永遠の生命、インド神話では宇宙創造の源であり、最高の美女をも意味する言葉だそうですが、いづれが定かかは不明。 極上かつ最大の月、スーパームーン?

ヒロインの夫役で出演したハンサムなチャールズ・ダンスは2004年に「ラヴェンダーの咲く庭で」監督デビューを果たし、製作総指揮及び脚本も手掛けます。
1983年の「The Right Stuff(ライトスタッフ)」や1995年の「Apollo 13(アポロ13)」で注目されたエド・ハリスは「チャイナ・ムーン」の前に1982年のホラー「クリープショー」で爆笑もののディスコダンス”Dont Let Go”をご披露し、コメディ「Milk Money(ミルク・マネー)」でパパも演じたインテリの演技派俳優です。 翌々年の1984年に「Places in the Heart(プレイス・イン・ザ・ハート)」で不倫をする洒落男役を演じている他、次の1996年に主演じゃないですがエド・ハリスが決起してアルカトラスに立て籠もる海兵隊の隊長フランシス・X・ハメル准将を演じた映画は手に汗を握るというか音響がすごくてド派手なアクション映画「The Rock(ザ・ロック)」で良心をもつ軍人役のエドが超魅力的でした。 2001年の「A Beautiful Mind(ビューティフル・マインド)」や2003年の「The Human Stain(白いカラス)」などの映画の他にも舞台で評価を得ています。 2013年にはありえへん「パラサイト 半地下の家族(2019)」や恐ろしくも哀しい遺伝子の「母なる証明(2009)」で知られる韓国のPong Jun-Ho(ポン・ジュノ)が監督するSF映画「Snowpiercer(スノーピアサー)」で特殊列車を建造した支配者の億万長者ウィルフォードを演じ、日本未公開ですが西部開拓時代のアメリカを舞台に夫を殺された妻の復讐劇「Sweetwater(スウィート・エンジェル)」で製作総指揮に名を連ね、山高帽に白ひげのジャクソン保安官役で主演します。 私的には1995年の「Just Cause(理由)」での全裸で檻に飛びつく狂気の囚人役はヤリ過ぎかなとか思いましたが、2002年の「The Hours(めぐりあう時間たち)」でのエイズ末期患者で詩人のリチャード・ブラウン役はなんともやるせない。 メリル・ストリープが演じるダロウェイ夫人(クラリッサ・ヴォーン)の面前で窓辺から死のダイブなんて! (この映画で初めて青いバースディケーキを見た) 1998年の「The Truman Show(トゥルーマン・ショー)」でのリアリティ・ショーのやらせテレビ番組製作者のクリストフ役ではゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞しています。(アカデミー賞の同賞にはノミネート)

Madeleine Stowe
John Badham(ジョン・バダム)が監督した1987年の「Stakeout(張り込み)」でメジャーデビューしたマデリーン・ストウは単にセクシーな美人女優ではありません。 今現在も中東、南米、アジアやアフリカといった世界中至るところで行われている囚人(容疑者)への残虐な拷問を問う映画ともいわれますが、1991年の密室での摩訶不思議な二人芝居「Closet Land(クローゼット・ランド )」を観ても分かるようにマデリーン・ストウは演技力も素晴らしいのです。(クローゼット・ランドの衣装を手がけたのは2012年の「Mirror Mirror / 白雪姫と鏡の女王」が遺作となった石岡瑛子でした) この翌年1992年にはレイ・リオッタが怪演する世にも恐ろしい「Unlawful Entry(不法侵入)」でマデリーンはカート・ラッセルが地味に演じるロスに住むマイクの美人妻を演じています。 この超美人妻は2001年の「Hannival(ハンニバル)」では自分の脳みそ食べさせられたRay Liotta(レイ・リオッタ)が演じる親切を装った精神異常の警官のターゲットとなります。 マイクは麻薬所持の罠を仕掛けられ刑務所送り、終結のカギはマイクが持っていないと警官に言った拳銃!と思いきや、弾を抜かれていた。 この時妻が狂気の警官にマイケルの拳銃を向けたシーンは「チャイナ・ムーン」で夫を撃ったシーンとそっくり。 そして、いつもとは違って少々品がないキャラクターとしては角膜移植手術を受けた女性を演じた1994年の「Blink(瞳が忘れない/ブリンク)」があり、刑事役のAidan Quinn(アダム・クィン)を相手に全裸で激しいベッドシーンを演じたマデリーンでしたがこの映画でもラストに殺された警官の拳銃でドナーの夫を撃っています。 キャラが違うといえばRobert Altman(ロバート・アルトマン)監督の「Short Cuts(ショート・カッツ)」で白バイ警官の妻を演じてヌードモデル姿も見せています。 このオムニバス映画で怖かったのは車に跳ねられた後歩いて帰宅した児童が昏睡状態に陥るエピソードと川で女の溺死体を見つけた3人の男たちがそのまま釣りを楽しむエピソードと激高した男に殴られ死亡した女の子が偶然起こった地震の被害者とされたエピソードです。 マデリーン・ストウのファムファタルといえば1990年に「Chinatown(チャイナタウン)」で主演したJack Nicholson(ジャック・ニコルソン)が監督も手掛けた「The Two Jakes(黄昏のチャイナタウン)」で殺された依頼人の妻のリリアンを演じています。 私が初めてマデリーン・ストウを観たのは1977年の「サタデー・ナイト・フィーバー」で有名なJohn Badham(ジョン・バダム)が1987年に監督した「Stakeout(張り込み)」でした。 これが映画初出演だったマデリーン・ストウはいつ見てもセクシーな美人女優ですがこのように美しい女性と1982年に結婚したのは1981年のテレビドラマ「Gangster Wars(ギャング)」で共演したBrian Benben(ブライアン・ベンベン)だそうです。

China Moon DVD
2009年に発売された「チャイナ・ムーン」日本語字幕版DVDです。
China Moon VHSチャイナ・ムーン/魔性の女 白い肌に秘められた殺意
なんと2008年に発売されたDVDはヴィンテージ価格の2万円!(ASIN: B001BAODHE)

「China Moon」のリージョン1海外版DVD(英語)ですが現在はこのカバー画像のビデオは全て入手困難になっています。
China Moon DVDChina Moon (R rated) Ntsc (DVD)


China Moon Soundtrack
アメリカ南部が舞台の「チャイナ・ムーン」の音楽を担当したのはGeorge Fenton(ジョージ・フェントン)ですがサントラは見つかりません。 映画で使用された曲にはテキサス出身のブルース・ギタリストであるAnson Funderburgh & The Rockets(アンソン・ファンダーバーグとロケッツ)が演奏する”Well, Well, Well, Baby-La”です。 Rose Marie McCoy(ローズ・マリー・マッコイ)が書いたこの”Well, Well, Well, Baby-La”は2006年に70才で亡くなったミシシッピ出身のデルタブルース・マンであるSam Myers(サム・マイヤーズ)をフィーチャーしています。 この他はサム・マイヤーズとアンソン・ファンダーバーグの共作である1991年の”Tell Me What I Want to Hear”や1989年の”Rack ‘Em Up”などブルースが使用されました。

Sam Myers (1936-2006)
映画でブルースを歌っていたのは1950年代半ばにElmore James(エルモア・ジェイムズ)と一緒に演奏したこともあるサム・マイヤーズで南部ミシシッピ出身のダウン・ホーム・ブルースマンです。 1985年から白人ギタリストのAnson Funderburgh & The Rockets(アンスン・ファンダーバーグ・バンド)で20年近く歌っていましたが、歌以外にブルースハープも吹きます。 映画「チャイナ・ムーン」では1957年のヒット曲”Sleeping In The Ground”は使用されていません。 ブルース・ハープ(ハーモニカ)の名手と呼ばれたサム・マイヤーズは惜しくも2006年に亡くなりました。
Sam Myers – Sleeping in the ground – YouTube