主婦であり、母親であり、そして犯罪者、ヴェラ・ドレイクの徳が家族を窮地に陥れる!
「ヴェラ・ドレイク」は1993年に「Naked(ネイキッド)」を製作した英国人監督のMike Leigh(マイク・リー)が監督するヒューマンドラマです。 2004年10月にニューヨークで封切りされてすぐ1位だったそうです。 「ヴェラ・ドレイク」は2004年9月11日、第61回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しています。 マイク・リー監督は夏目漱石の小説「坊ちゃん」内の会話に出てくるイギリスの画家のJ.M.W. Turner(ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー)の伝記を描いた「Mr. Turner(ミスター・ターナー)」があり、ターナーを演じたTimothy Spall(ティモシー・スポール)が2014年のカンヌ国際映画祭で男優賞を受賞しています。
ヴェラの「お湯を持ってきて!」が珈琲を入れるためではないと分かる時・・・
そ・れ・は・始まる
1950年、堕胎が法のグレーゾーン(灰色領域、違法、闇社会)だったロンドンでのお話しです。
闇堕胎で逮捕された主婦ヴェラ・ドライク役を”Imelda Staunton(イメルダ・スタウントン)”が演じます。 サリー・ホーキンスが演じる裕福な家庭のスーザンはちゃんとした医者にかかれるのでしょうが貧しい娘たちはそうもいきません。
ロンドンの下町に住む主人公のヴェラ・ドライクは温和で家族思いの働き者の主婦です。 仕事場でも家でも一日中ハミングしながら楽しそうに働いています。 優しい夫と内向的な娘と仕立て屋の息子もいます。 このシリアスな映画でたった1箇所笑えたのが、仕立て屋の息子の顧客がセビロを注文する時です。 「George Raft(ジョージ・ラフト)みたいに」と言ったので息子は「スパッツも?」と冗談を言ったくだりです。 ジョージ・ラフトというのは1959年の「Some Like It Hot(お熱いのがお好き)」に出演したギャング役で名高い俳優で、映画での役名はスパッツ親分でした。
食料難の時代にヴェラ・ドレイクのところに闇食料を持ち込むのが裏社会に生きる幼馴染のリリーでした。 食料品と共に堕胎の話も持ってくるのです。 「もう既に7人も子供があるのに、お金がなくて困っているの」 医師に診てもらえば100ポンドはかかる。 違法行為とは分かっていても人助けのためとヴェラ・ドレイクはほってはおけません。 そんなことで何人もの貧しい女性たちを救ってきたのですが、ヴェラ・ドレイクが処置を行った女性が亡くなったことから急転します。 雪降るクリスマスの晩、娘の結婚も決まりダブルのお祝いムードの家庭に警察がやって来たのです。 その時のヴェラ・ドレイクの驚いた顔! 小雪が降るなか、ヴェラ・ドレイクは刑事に連行されて行きます。 最初は自分は気の毒な女性たちを救ったという自負心に満ちていたヴェラ・ドレイクが犯罪者として自覚するに至る過程は見るも痛ましい限りです。 特に刑務所でストッキングと共に結婚指輪を外すシーンはの心中察するに余りあるものを感じます。 報酬は得ていないし初犯だからとヴェラ・ドレイクの刑期は2年半でした。 仲介したリリーの刑期は4年でしたが、人間が一人亡くなっているのでこの判決は軽いのかとも思えます。
Vera Drake Trailer – YouTube
Salut d’Amour Op.12
「ヴェラ・ドレイク」の音楽はマイク・リーが監督した1984年の「High Hopes(ビバ!ロンドン! ハイ・ホープス ~キングス・クロスの気楽な人々~)」同様にイギリスの作曲家のAndrew Dickson(アンドリュー・ディクソン)が担当していますがサントラにはイギリス(イングランド)の作曲家であるEdward Elgar(エドワード・エルガー)が作曲した”Salut d’Amour Op.12(愛の挨拶 作品12)”が使用されています。 誰でもが聞いたことがあるあの旋律で有名なエルガーの楽曲ですが、初期の1888年に婚約者に贈った作品だそうです。
マイク・リー監督とイメルダ・スタウントンは2005年2月27日開催のAcademy Awards(オスカー)にノミネートされ、主演のイメルダ・スタウントンは2004年の金獅子賞女優賞を初め、同じく2004年のゴールデングローブでも主演女優賞を受賞するなど数々の賞を獲得しました。
私が初めてイメルダ・スタウントンを観たのは1998年にグウィネス・パルトローが舞台役者志望のトマス・ケントを演じた「恋におちたシェイクスピア」で実はお嬢様のヴァイオラの乳母役でした。
ページトップの画像は輸入版のDVD(英語)ですが、こちらは2006年発売の日本語字幕版「ヴェラ・ドレイク」DVD
ヴェラ・ドレイク DVD
Mike Leigh
「ヴェラ・ドレイク」を監督したマイク・リーは「ヴェラ・ドレイク」同様に脚本も手掛けた1993年のイギリス映画の「Naked(ネイキッド)」がカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した話題作でした。 ビデオの邦題が「快楽に満ちた苦痛」というイギリスの衝動的な若者を描いた「ネイキッド」は群集劇といってもポール・ハギスが監督した2004年のCrash(クラッシュ)とは異なり、”fuckin! fuckin!”を連発する若者が次々と病んでいる人々と関わっていき、聖書を引用しての哲学的問答は私にはなんとも理解しがたい群集劇でした。 私には預言者のエレミアしか思い浮かばなかったフランス語を話すジェレミーの謎は残るものの、マイク・リー監督の映画ではお馴染みで「ヴェラ・ドレイク」の音楽を手掛けたAndrew Dickson(アンドリュー・ディクソン)のクラシック調のサウンドトラックは「ネイキッド」でも素晴らしかった。 日本未公開でしたが1988年のマイク・リー監督の「High Hopes(ビバ!ロンドン! ハイ・ホープス ~キングス・クロスの気楽な人々)」ではヨーロッパ・映画賞で音楽賞を受賞したイギリスの作曲家であるアンドリュー・ディクソンは舞台の音楽を担当する他、役者や音楽監督も務めるなど多才です。 「ネイキッド」といえば前年の1992年にDamage(ダメージ)のラストに刑事役で出演したDavid Thewlis(デヴィッド・シューリス)が主人公を熱演してマイク・リー監督同様に男優賞を受賞していますが今のところ私にはデヴィッド・シューリスの美しさが解らない。 でもGreg Cruttwell(グレッグ・クラットウェル)が演じたセバスチャン(ジェレミー)の暴力性にショック。
Naked Trailer – YouTube