或る夜の出来事 It Happened One Night (1943)

或る夜の出来事(1943年)
アカデミー監督賞3度獲得の名匠Frank Capra(フランク・キャプラ)の傑作ラブコメで、Claudette Colbert(クローデット・コルベール)演じる大富豪のお嬢様と、Clark Gable(クラーク・ゲイブル又はクラーク・ゲーブル)が演じるしがない新聞記者の逆玉のロマンス喜劇です。(ロマコメもしくはラブコメ)

スクリューボール・コメディの原型を作ったといわれる作品ですが、1934年の大恐慌の真っ只中に公開されて、その年最大のスリーパー・ヒット(サプライズ!思いもかけず映画などがヒットする)を記録しました。 ちなみにScrewball comedy(スクリューボール・コメディ)とはハリウッド黄金期のちょっと変わったハッピーエンドの娯楽映画のことだそうです。 例えば1938年の「Bringing Up Baby(赤ちゃん教育)」ではキャサリン・ヘプバーンが演じるお嬢さまとケーリー・グラントが演じる真面目学者、1941年の「Ball of Fire(教授と美女)」ではバーバラ・スタンウィックが演じるダンサーとゲイリー・クーパーが演じる世間知らずの教授との愉快なスクリューボール・コメディがありました。

I’m the whippoorwill that cries in the night.
I’m the soft morning breeze that caresses your lovely face.

親に結婚を反対されたお嬢様が家出してニューヨーク行きの夜行バスに乗り込み、フィアンセの元へと逃避行します。(逃亡か?) そのバスでニューヨークの新聞記者と出会い、最初は気の合わない二人が反発しあいながらも次第に惹かれあっていくというストーリーです。
同じ大恐慌の時期に親に結婚を反対されてハンストするのは1933年創刊のChic Young(チック・ヤング)作のコミック「BLONDIE(ブロンディ)」の始めに描かれていました。 Dagwood(ダグウッド)お坊ちゃまが、父親の秘書のブロンディとの結婚を親に認めさせるため、28日と7時間と22秒のハンガー・ストライキを決行したのでした。

The Walls of Jericho
お行儀の良いベッド・シーン 「ジェリコの壁」
Walls of Jericoニューヨークへの道中、天候が悪く夜行バスが足止めを食らい、やむなくモーテルに夫婦として宿泊するはめになった二人ですが、当時の未婚の男女はベッドを共に出来ないというヘイズ・オフィスのプロダクション・コードに策を労し、二つのベッドの間にロープに吊るした毛布でジェリコの壁なるものを作り、お行儀の良いコミカルなベッド・シーンを演出しました。 これは女優コルベールがスタッフの前での着替えを嫌がったので苦肉の策から生じたアイデアをさらに発展させたものだったそうです。 他にもベッドルームを仕切った映画ではJames Stewart(ジェームズ・スチュワート)が主演した1941年の「Come Live with Me」で不法入国者のウイーンの踊り子(ヘディ・ラマー)が市民権を得ようと作家と結婚を企むというストーリーです。(Come Live with Me, and be my love…)
この”ジェリコの壁”のアイディアは2001年の「Bandits(バンディッツ)」にも取り入れられています。
ジェリコの壁というのは聖書ではエリコ(イェリコ)の壁と呼ばれて堅固なものの喩えとなっているそうです。
また、バスの最初の休憩停車のシーンで、ホットドッグ売りに乗客の男が耳打ちしたのは…トイレの場所を尋ねたのです。 当時の検閲コードではあからさまなトイレの映像やセリフなども出せなかったそうです。 ところがです、日本では考えられませんが良家のお嬢様が煙草を吸うことはOKみたいでした。

クラーク・ゲイブルがモーテルで着替えをするシーンでは、ユーモラスに「紳士というものはいかに脱ぐか…」のウンチクを傾けながらだと時間がかかリ過ぎたので下着は無しになったそうです。 つまり、ワイシャツを脱ぐとすぐ裸! これが当時の紳士の間では、「おっされ~♪」ってことでブームになり、「A Streetcar Named Desire(欲望という名の電車)」のMarlon Brando(マーロン・ブランド)では大儲けした下着業界ですが、その後2年間に渡り下着シャツの売上が落ちた原因とされて、下着業界がコロンビア映画を訴えようかということもあったとか。 こんなことからか後に商品の宣伝を映画でするようになったのだとか。

Ehh, what’s up, doc? – Bugs Bunny(「どったの?せんせ」のバッグス・バニー)みたいに、ゲイブルが飢えをしのぐため、採り立ての生ニンジンをかじりがら、「ヒッチハイクではこれこれ…」とウンチクを傾け実演してみせるが車は一行に止まりません。 あきらめたところ、なんと!お嬢様が親指よりも脚が効果的であることを証明して見せました。 ところがこれがヒッチ・ハイカーを狙った雲助ドライバーだった!とか、富豪の父親が雇った探偵どもを煙に巻く際の夫婦気取りの二人の掛け合い演技とか、お嬢様の記事を読んだバスの乗客の一人のゆすりに対して殺し屋を気取りで追っ払うシーンなど抱腹絶倒!

果たしてジェリコの壁は崩れるのでしょうか!ローマンスやいかに!

video「或る夜の出来事」のトレーラーはIt Happened One Night Trailer – VideoDetective
ゲイブルがニンジンを片手にヒッチのウンチクを語るシーンとコルベールお嬢様の脚ヒッチ!の笑える映像です。

この映画の原作はアメリカ人の作家でジャーナリストのSamuel Hopkins Adams(サミュエル・H・ホプキンス、もしくはサミュエル・ホプキンス 1871-1958)が書いた短編「Night Bus(夜行バス)」というロマンス・コメデイです。 作家のホプキンスは1906年のノンフィクションの暴露本「The Great American Fraud(加工食品や医薬品の乱用を暴露)」で知られるニューヨーク生れのジャーナリストですが、ミステリの分野では1951年に発表されたEllery Queen(エラリー・クイーン)のクイーンズ・クォーラムにも入ったそうです。

この映画は映画史上初めてのアカデミー賞の主要五部門(作品、監督、主演男優、主演女優、脚本)受賞作品です。 このような作品は他に、1975年の「One Flew Over The Cuckoo’s Nest(カッコーの巣の上で)」と1990年の「The Silence of the Lambs(羊たちの沈黙)」しかないとか。

当時、アメリカの映画会社MGM(Metro-Goldwyn-Mayer, Inc.)の看板スターだったクラーク・ゲイブルがちょっと天狗になったとかで懲らしめの意味で当時二流スタジオであったコロムビア映画(Columbia Pictures Industries, Inc.)へ貸し出されてこの「或る夜の出来事」に出演したところ、この映画でキャプラ氏の言うところの”ゲイブル自身の性格を反映したキャラクター”を好演して大成功し、名実共に大スターとなったのだとか。
1939年に「欲望という名の電車」のVivien Leigh(ヴィヴィアン・リー)と「Gone With the Wind(風と共に去りぬ)」で共演したゲーブルは、1955年に「私は死にたくない」のSusan Hayward(スーザン・ヘイワード)と「Soldier of Fortune(一攫千金を夢見る男)」で共演、1958年にはDoris Day(ドリス・デイ)と「Teacher’s Pet(先生のお気に入り)」というように有名女優たちと共演演しました。 そして1961年にはMarilyn Monroe(マリリン・モンロー)と「The Misfits(荒馬と女)」で共演しましたがこの映画に出演したモンローが急逝し、その後にクラーク・ゲイブルも心臓発作のため59歳で急逝したので「荒馬と女」が二人の遺作となります。 ちなみに「一攫千金を夢見る男」には1960年代に放映されてテレビシリーズの「Burke’s Law(バークにまかせろ)」で人気だったGene Barry(ジーン・バリー)が中国で行方不明になったジャーナリストのLouis Hoyt(ルイ・ホイト)役で出演していました。

クラーク・ゲイブルは実生活で「鉄仮面」に主演したDouglas Fairbanks(ダグラス・フェアバンクス)の最後の妻だったCarole Lombard(キャロル・ロンバート)にぞっこんとなり1939年に3度目の結婚したのですがキャロル・ロンバートは1942年の飛行機事故で33歳にして亡くなってしまいました。 Alas!
※ この有名な悲劇はJill Clayburgh(ジル・クレイバーグ)がロンバートを演じた1976年の映画「Gable and Lombard(面影)」(ASIN: B0001CNRA2)で描かれています。 「面影」の美しいテーマ曲である”Gable & Lombard Love Theme”を作曲したのはフランス映画の音楽を手掛けるピアニストのMichel Legrand(ミシェル・ルグラン)ですが「Gable and Lombard」MCA盤のサントラは現在は入手困難です。(参考にEPドーナツ盤「面影のラブ・テーマ/捧ぐるは愛のみ」のサントラ画像はASIN: B0772TVWRB) ミシェル・ルグランの映画音楽集のアルバム「Le Cinema de Michel Legrand」のdisc3の16番に収録されている”面影のラブ・テーマ”は国内盤だと”面影 (1976年)::愛のテーマ”として「シネマ・ルグラン~ミシェル・ルグラン 映画音楽集成 (ASIN ‏ : ‎ B0011EUO3W)」
♪ ”Gable & Lombard Love Theme(面影 (1976年)::愛のテーマ)”の試聴は類似したアルバムThe Music of Michel Legrand – Ototoy.jpの9番で聴けます。

アカデミー賞発表の当日、コルベールはこの映画「或る夜の出来事」に関心が無く旅行の予定を取っていたので、受賞を聞いてから急いで会場に駆けつけ、旅行着のままスピーチしたのだそうです。 コルベールは「或る夜の出来事」に関しては衣裳に縁がなかったみたいで、薄い部屋着、旅行着、借りたクラーク・ゲイブルのパジャマ、ウエディング・ドレスのたった4着しかお色直ししていません。

ところで、この映画でお嬢さまの婚約相手の名うての女たらし飛行家って、当時カサノバっていうあだ名で話題だった”あのお方”をパロディッてるのかも?

レトロな手書きのポスターはIt Happened One Night Poster – Alyon.org
上記と同じで日本語のポスター(ASIN: B00N2GDUW4)
★ コルベールの1934年のクレオパトラ他の写真が見られるClaudette Colbert Photos – Dr. Macro’s High Quality Movie Scans

ページトップの画像は「或る夜の出来事」の輸入版DVD(英語)です。
こちらの画像は2004年に発売された日本語字幕版DVDですが入手困難になっているのでリンクは2014年に発売になった500円DVDになっています。
One Night或る夜の出来事 DVD


Audio-Visual Trivia内でフランク・キャプラ監督の心温まるドラマは「素晴らしき哉、人生!
Audio-Visual Trivia内のスクリューボール・コメディは1953年の「How to Marry a Millionaire(百万長者と結婚する方法)」
1958年の「Bell, Book and Candle(媚薬)」
1959年の「Some Like It Hot(お熱いのがお好き)」