ケヴィン・スペイシー 交渉人 The Negotiator (1998)

Kevin Spacey as Lt. Chris Sabian in “The Negotiator”
The Negotiator
交渉人 (1998年)

F. Gary Gray(F・ゲイリー・グレイ)が監督した緊張感だけで展開するハイテク・アクション&サスペンス映画で、色気もユーモアも無し!
出演は映画「A Time to Kill(評決のとき)」のコンビで、有能な交渉人(警察官)でありながら障害基金横領の犯人とされるSamuel L. Jackson(サミュエル・L・ジャクソン)と交渉を担当する任務を引き受けた警察官にはKevin Spacey(ケヴィン・スペイシー)です。 人質となるタレ込み屋を「Sideways(サイドウェイ)」や「Fred Claus(ブラザーサンタ)」のPaul Giamatti(ポール・ジアマッティ)が演じています。
このストーリーでイリノイ州のシカゴになっている「年金汚職」というのは実際には1980年代にセントルイスで起こった事件がヒントになっているそうです。 ちなみに汚名を着せられた交渉人のダニー・ローマンを演じるサミュエル・L・ジャクソンは大学時代に黒人差別に対抗して実際に人質を取って抗議したことがあったそうです。

Samuel Jackson as Lt. Danny Romanシカゴ警察東分署で人質交渉人として実績のあるサミュエル・L・ジャクソン演じるDanny Roman(ダニー・ローマン)が汚職にからむ殺人の濡れ衣をはらすために交渉の英知をもって連邦警察本部内務捜査局ある高層ビルに立てこもり、ケヴィン・スペイシー演じるChris Sabian(クリス・セイビアン)なる西分署の腕利きの交渉人(ネゴシエイター)を自ら指名する。 篭城犯人は自分の所属する警察内部に犯人がいるとふんだので、部外者のほうが信用できると思ってのことです。 どこまで交渉人同士が信頼しあえるか、この二人の対決が緊張感を高めます。 加えて署内の人物達の犯罪に関わる不明度が観ている者ををにわか探偵に仕立て上げます。 この人物はシロ? クロ? そしてあっと驚くラスト・シーンが「女心と秋の空」みたいながっくり来る展開のおかげでさらに手に汗を握るエンディングが待ち受けています。 色気がない白黒調画面では観るのに乗り気がしないかと思いきや、ラストまでぐんぐんひっぱられて緊張の連続です。

「交渉人」 (1998)のあらすじ
娘を人質にとって浮気女房を連れて来いと要求する男と交渉するシカゴ警察所属の交渉人ダニーのシーンで始まる。 このシーンで突入寸前のグラント・フロスト本部長補佐が率いるスワットに対し娘を守るため交渉したいダニーが男の部屋に入る決心をする。 狙撃兵が向かいの建物から男を狙う中、ダニーは妻が来ていると嘘を言って中に入り込み男を窓辺に誘い出して打ち合わせ通りに狙撃された。 説得力もすごいがハッタリもかますダニーの交渉は危機一髪です。

障害基金の役員をしているダニーは同僚の警官ネイサンから二人が所属する部署の人間も関わっているという障害基金200万ドル(2億円以上)の横領について知らされるがそのネイサンが殺されてしまいます。(犯人は顔見知りか) そのネイサンと現場で会う約束をしていたダニーは不思議にも間髪入れずに到着した警官に容疑者として連行され、シカゴ警察SWAT隊を率いるフロスト本部長補佐や内務調査局長のテレンス・ニーバウムにネイサンに聞いていなかった横領の内偵者の名前を尋ねられます。 ネイサン殺しと障害基金横領犯としてダニーをはめる罠は既に仕掛けられていた。 家宅捜査まで受けて濡れ衣を着せられたダニーは警察バッジと拳銃を署長に返却し、真実を暴かんと連邦政府ビルの内務捜査局に押し入る。 ダニーはニーバウム内務調査局長では埒が明かないと彼と秘書に加えタレコミ屋のルディ・ティモンズや丁度入ってきた警官のフロストまで人質にとりオフィスに籠城したのです。 これからが名交渉人のクリス・セイビアン警部補の登場です。(残念ながらテレビ放映の縮小版では冒頭のセイビアンの家庭での私生活は描写されない) スワットの突入計画も万端整っている中、東地区の交渉人ダニーが解決の可能性を求めて西地区のセイビアンを交渉相手に指名します。 窮した署長はFBIに指揮権を渡さぬようセイビアンに全権を委ねます。 ダニーは交渉の一環としてセイビアンにニーバウムのコンピュータを起動するために切った電気を戻すことと人質に毛布を要求し警官フロストを解放する。 古いシステムのコンピュータをルーディが操作すると案の定ネイサンとダニーの盗聴された会話が見つかった。 セイビアンもハッタリをかまして真実を探る。 ところがセイビアンの命令を無視したスワット突撃から軋轢が生じ、このビルは連邦警察の管轄だが待とうと控えていたFBIが待ってましたと取って代わったのでセイビアンは首。 ネイサンの次に暗殺されたのは人質に取られたニーバウム。(狙撃手はなんとニーバウムに3発も命中させた) ダニーは外に逃れたから今度は我々の管轄だ。FBIは手を引けとベッグ隊長。 そこから次々と真実に近づくことに。
えーっという驚きの結末は暴露できません、悪しからず。 しかし、このような不正はどこでもあるんでしょうね。 偽の申請を提出する人間とそれを認定する人間が組めばどんな詐欺でも可能。 美味しくて止められない。 美女は絡まないがケヴィン・スペイシーが出演しているせいか警察署の内部告発のせいか1997年の「L.A.コンフィデンシャル」とダブります。

映画の中盤で1953年にAlan Ladd(アラン・ラッド)が主演した名作西部劇「Shane(シェーン)」で死を覚悟で戦った主人公について語っています。 交渉人で西部劇好きのセイビアンが終盤でフロストに言うには「”シェーン、カムバック!”と言った時にシェーンは振り向かなかった。シェーンは死んでいたのだ」 一方コメディ映画好きのダニー・ロマンは「死んでいない!」 果たしてシェーンは死んだのか?生きていたのか? 何れにせよ、ガンマンの時代は終わったことは確か。
Shane Come Back! – YouTube

交渉人「クリス・セイビアン」の家庭での愛娘にメロメロの駄目パパぶりで始まるこの映画ですが、これが現場での切れ者ぶりを引き立たせます。 ビル爆破を説得させるほどの凄腕交渉人も家庭では妻や子供との交渉には手を焼いています。(惜しくもこのシーンはダイジェスト版ではカット)

video「交渉人」のトレーラーはThe Negotiator Trailer – VideoDetective

Kevin Spacey
当初ケヴィン・スペイシーが人質を取って篭城するダニー・ロマンの役でしたが、交渉人「クリス・セイビアン」役をSylvester Stallone(シルベスター・スタローン)が蹴ったために配役を代えてケビン・スペイシーが演じることになったのだそうです。
ケヴィン・スペイシーはこの後1999年に「アメリカン・ビューティー」でアカデミー主演男優賞を受賞、 2001年には「アイアンマン」でアイアンマンガーを演じたJeff Bridges(ジェフ・ブリッジス)も出演したファンタジック・ミステリーの「K-Pax(光の旅人)」でK-PAX星からやって来た異星人を演じ、2004年の「Beyond the sea(ビヨンド the シー 夢見るように歌えば)」ではゴールデン・グローブ賞を獲得しています。 私が観たケヴィン・スペイシーの映画で印象深いのは1995年の「Se7en(セブン)」、1997年の「Midnight in the Garden of Good and Evil (真夜中のサバナ)」と「L.A. Confidential (L.A.コンフィデンシャル)」、1999年の「American Beauty(アメリカン・ビューティー)」です。 特筆すべきは「The Game(ゲーム)」のDavid Fincher(デヴィッド・フィンチャー)が監督した「セブン」で、ケヴィン・スペイシーが演じた連続猟奇殺人事件の犯人ジョン・ドゥ(名無しの権兵衛)は自分が誰かは問題じゃないとリンチのように罪人に罪を贖わせる異常に不気味な必殺仕置き人でした。(脚本は本作で名が知れ「ゲーム」もリライトしたAndrew Kevin Walkerですが、刃付きDildoが凄過ぎで犯人が羨む若い刑事の最愛の妻の頭を頂いたことに憤った刑事が「神」を口にしてジョン・ドゥの一連の犯罪が完結) 不気味といえばケヴィン・スペイシーは1995年の「The Usual Suspects(ユージュアル・サスペクツ)」で意表をつく半身不随でケチな詐欺師(正体はまさか!の実在しないと云われてたギャング”カイザー・ソゼ”)ヴァーバル・キントを演じてアカデミーの助演男優賞を獲得しています。

Samuel L. Jackson
サミュエル・L・ジャクソンはEddie Murphy(エディ・マーフィ)シリーズから毎年数本の映画出演を経て、40歳代から油が乗って来たという俳優です。 Quentin Tarantino(クエンティン・タランティーノ)作品の1994年の「Pulp Fiction(パルプ・フィクション)」でのサミュエル・L・ジャクソンが演じるアフロの殺し屋と、1997年の「Jackie Brown(ジャッキー・ブラウン)」での編んだ顎髭がユニークなポニーテイルのイカサマ武器密売人と変わるファッションが面白いですが、「ジャッキー・ブラウン」はエルモア・レナードの犯罪小説が原作でレナード・マニアのタランティーノが「Get Shorty(ゲット・ショーティ)」の2年後に監督しています。 初期はギャング役が多かったサミュエル・L・ジャクソンですが、1996年の「A Time to Kill(評決のとき)」と今作の「交渉人」では緊迫感溢れるストーリーでシリアスな人物を演じて注目された他、意外なのは1999年の緊迫感満載の鮫映画「Deep Blue Sea(ディープ・ブルー)」では中盤にいきなり実験台となったサメにパックンされちゃう製薬会社社長役でした。 「交渉人」では名交渉人を演じたサミュエル・L・ジャクソンがサンフランシスコ市警の殺人課本部長(実は…)を演じた「Twistedd(ツイステッド)」がありますが、その後も数多くの映画で活躍しており、FBIのフリン捜査官を演じた2006年の「Snakes on a Plane(スネーク・フライト)」は大量の毒蛇が主役のお気楽映画でしたが、死んだパイロットに代わって飛行機を操縦することになった乗客のラッパー君、飛行歴2000時間っていってもプレステのことだったから着陸経験なしなんて! たしかデニス・クエイドが主演した2004年の「フライト・オブ・フェニックス」のオリジナルでRobert Aldrich(ロバート・アルドリッチ)が監督した1965年の「Flight of the Phoenix(飛べ!フェニックス)」では不時着した飛行機を作り替えて飛ばしたのは乗客の飛行機設計士(ただし模型)だった。 この新飛行機をフェニックス号と名付けたのは石油会社会計士のスタンディッシュを演じたダン・デュリエでした。 ちなみに映画ではサミュエル・L・ジャクソンが蛇に対抗するために手にしたのはスタンガンなのにポスターではライトセーバーだよ。 ライトセーバーといえば、「Star Wars(スター・ウォーズ)」3部作では坊主頭のMace Windu(メイス・ウィドゥ)を演じています。 何でも引き受けるサミュエル・L・ジャクソンが裁かれる立場の海兵隊大尉役で出演し戦争犯罪を扱ったた2000年の法廷劇「Rules of Engagement(英雄の条件)」では検察側のGuy Pearce(ガイ・ピアース)と弁護側のTommy Lee Jones(トミー・リー・ジョーンズ)の激しい攻防戦が交わされて肩が凝った映画でした。(一見に値する) イギリス俳優のガイ・ピアースが2000年のMemento(メメント)に続いて「英雄の条件」に出演していますが、ケヴィン・スペイシーが主演した1997年の「L.A.コンフィデンシャル」での新米刑事にも似たキャラクターを演じています。 シカゴ警察SWAT隊を率いる重要人物のCmdr. Grant Frost(グラント・フロスト本部長補佐)を演じるのが1997年に「L.A.コンフィデンシャル」でユダヤ人のエリス・ロウ地方検事や2001年の「The Majestic(マジェスティック)」では顧問弁護士のケビン・バナマン役とたくさんの映画に出演したRon Rifkin(ロン・リフキン)ですが「交渉人」が最も印象的です。
ところで、2003年に「S.W.A.T.」に出演したサミュエル・L・ジャクソンが2004年にはアニメの「Mr.インクレディブル」でLucius Best/Frozone(ルシアス・ベスト/フロゾン)の声を担当しますが「キル・ビル2」ではオルガン奏者役でカメオ出演してたってご存知? 2006年には「アフロサムライ」、2008年には「Iron Man(アイアンマン)」にも出演します。 おっと、その前年にはエンディングにロマンチックな声のCory Chisel (コーリー・チゼル)が歌う”Getting By”が使用された「ザ・クリーナー 消された殺人」では殺人現場の掃除人役などとありとあらゆる役柄を演じているサミュエル・L・ジャクソンです。最も驚愕するキャラクターは2000年にM. Night Shyamalan(M・ナイト・シャマラン)が監督した「Unbreakable(アンブレイカブル)」のミスター・ガラスことイライジャです。 イライジャは生まれた時には四肢を骨折していたという骨形成不全症を患った黒人男性ですが、重度の精神障害も患い自分の目的のために実に恐ろしい策を講じます。

「交渉人」を監督したF・ゲイリー・グレイは2005年にJohn Travolta(ジョン・トラヴォルタ)主演の「Be Cool(ビー・クール)」を総指揮及び監督します。

The Negotiator DVD
2010年に発売された「交渉人」の日本語字幕版DVD
The Negotiator DVD交渉人 特別版
2010年発売のブルーレイ「交渉人」Blu-rayは現在入手困難となりましたが2009年発売なら第三者から入手可能。(ASIN: B002PHBICU)

The Negotiator Soundtrack
シン・シティ」の音楽を手がけるインダストリアル・ミュージックのパイオニアといわれるGraeme Revell(グレアム・レヴェル)が手掛けた「交渉人」のサウンドトラックは1998年に発売されましたが現在入手困難になっています。 ”人質の危機”から”警官隊の到着”とストーリーを追って”最後の決裂”や”エンドタイトル”までの全15曲を収録しています。
The Negotiator交渉人 オリジナル・モーション・ピクチャー・スコア
輸入盤「The Negotiator」(ASIN: B000009HRA)もあります。
ユニークな厳粛な交響曲風と宗教的合唱風のシンセの融合で映画のストーリーを追った全15曲を収録しているサントラですが現在試聴は全く見つかりません。
♪ 交渉人のサントラ全15曲のうちかろうじてトラック1からトラック5までの Hostage Crisis、Elegy、The Troops Arrive、F.U. Danny Roman、The Stakeoutが試聴できるGraeme Revell – Club CD

ケヴィン・スペイシー 交渉人 The Negotiator (1998)」への2件のフィードバック

  1. nandakanda46 より:

    はじめまして。西部劇「シェーン」の最後にシェーンが少年と別れてから「生存説」と「死亡説」があるのをネットで知りました。かなり遅れてつい最近この「交渉人」を観て二人の会話に出て来たので、なーんだ、これが元なんだと気付いた次第。昔はそんな説はありませんでしたから。それにしても本作品は例え「身の潔白」を証明したくてもやり過ぎだから何らかのおとがめは間違いない。テロと少しもかわりないですね(笑)。又寄らせて下さい。

  2. koukinobaaba より:

    私はビデオで観たのですが、以前にテレビで放映された時にはアクセスがこの記事に集中して驚いたことがあります。
    狂気の強硬手段を取らなかったら果たしてダニー・ロマンの無実が証明できたでしょうか。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」

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