Aurélien Recoing as Vincent in L’emploi du temps
車好きだが良きパパのヴァンサン
タイム・アウト(2001年)
監督デビューのRessources Humaines(ヒューマンリソース)(1999年)で注目されたフランスの監督Laurent Cantet(ローラン・カンテ)が続いて脚本も手掛けた長編映画の2作目がこの「L’emploi du temps(タイム・アウト)」で、2001年のVenice Film Festival(ヴェネチア映画祭)でDon Quixote Award(Special Mention=審査委員特別推薦賞?)を受賞しました。
L’affaire Jean Claude Romand (ロマン事件)
1993年にフランスで実際に起きた偽医者のJean-Claude Romand(ジャン=クロード・ロマン)が引き起こした怖い「L’affaire Jean Claude Romand(ロマン事件)」を題材にしたカーレルの小説の「L’adversaire(嘘をついた男)」の映画化です。 嘘を現実にするために殺人が行われたのです。
舞台俳優の経験があるAurélien Recoing(オーレリアン・ルコワン)が演じる主人公の男Vincent(ヴァンサン)は車の中にいるにもかかわらず、「会社で会議だ」とかなんとか妻に電話する冒頭のシーンから怪しげな行動が続きます。 そうです、リストラされたヴァンサンは家族や友人みんなに嘘をつきまくるのです。 誰もこれに気付きません。 とうとう、こともあろうことになんと、国連で仕事をしていることにしてしまいます。 一度嘘をつくとそれを隠すために次々と嘘をつかねばなりません。
会社を首になったことを家族に告げずに無為に数ヶ月を過ごし、とうとう詐欺行為にまで手を染め出したビジネスマンの話です。 どうして解雇されたかって? ドライブが好きでよく仕事をさぼったからです。 病的な妄想と虚言が・・・嘘が嘘をよび、重大な過ちを犯すようになる。 大人になりきれないが本来は誠実な家庭人の夫が嘘にまみれていく様は恐ろしい光景です。 (もしかして…ウチはダイジョウブかしら?)
悪者にもなりきれないヴァンサンは、結局、家族の愛の手により救われるのです。 映画の方はめでたし、めでたし! 一貫してたんたんと無感情に近かったヴァンサンだっただけに、ラスト・シーンでやっとマトモな就職の面接に成功した時の笑顔が印象的です。
2時間は多少長すぎるとはいえ、男の自己価値感を考査する点で面白い映画です。 ある種、オーレリアン・ルコワンの心理劇、あなたはルコワン演じるヴァンサンの考えについていけますか? え?置き去りにされた?
タイトルの”L’emploi du temps(ロンプロワ・デュ・トン)”はフランス語で「時間の使い方」もしくは「時間割(スケジュル)」という意味だそうです。
主演したルコワンについてはAurélien Recoing – Allocine.fr
トレーラーはBande annonce vf – L’Emploi du temps – ALLOCINÉ
写真はL’Emploi du temps : Photo Aurélien Recoing
日本で発売されているフランス語版輸入リージョン2のDVDが見つかるかもしれません。(https://amzn.to/3uCHUwq)
L’Emploi du temps DVD
Emmanuel Carrère(エマニュエル・カーレル)の事実に基づいたドキュメンタリー・タッチの小説(単行本)
嘘をついた男
WHO(World Health Organization)の職員という18年の偽りの生活の果てに愛する人々を手に掛けた殺人犯ロマンとの獄中書簡や公判記録をもとにロマンの内面を探ります。
☆2005年8月31日から開催される第62回ヴェネチア映画祭にローラン・カンテ監督の「Vers le Sud(南へ向かう女たち 2005年)」がノミネートされています。 なんと!あの衝撃的なイタリア映画「The Night Porter(Der Nachtportier 愛の嵐 1973年)」の哀愁のセクシー女優Charlotte Rampling(シャーロット・ランプリング)が出演します。 「愛の嵐」の映画ポスターにも使用されたシャーロット・ランプリングの衝撃的な写真は不足した映画の制作費を補うための苦肉の策だったそうです。
「Vers le Sud」の予告編はAllocine.fr
Aurélien Recoing
オーレリアン・ルコワンは2005年の第56回ベルリン国際映画祭に出品されたChristian Petzold(クリスチャン・ペゾルド)監督の2005年のドイツ映画「Gespenster(ゴースト)」にPierre役で、フランス映画の「13 Tzameti(13/ザメッティ)」に闇の邪悪なゲームを生き残るジャッキー役で出演している他、2007年にFlorent Siri(フローラン・シリ)監督の「L’Ennemi intime(いのちの戦場 アルジェリア1959)」で仏軍のヴェルス少佐役や、2009年のホラー・アクション映画の「La Horde(ザ・ホード 死霊の大群)」にも警官のジメネス役(Jimenez)で登場します。 モントリオールの若いファッション・デザイナーがswitch.comで旅行先のパリでの住まい交換をしたところ、エッフェル塔近くのその家で猟奇殺人事件の犯人に仕立て上げられ、アイデンティティもスウィッチされる2011年の「Switch(スウィッチ)」ではDelors(デロール)刑事役でちょっと登場します。(虐殺された男と殺人犯にされたデザイナーと真犯人が同じタネだなんて!)
L’emploi du temps Soundtrack
「タイム・アウト」のサウンドトラックはスタンリー・キューブリック監督の「Eyes Wide Shut(アイズ・ワイド・シャット)」での秘密の仮面舞踏会での宗教めいた音楽やアルパチーノ主演の「ベニスの商人」の音楽を担当した英国の女性作曲家のJocelyn Pook(ジョセリン・プーク)」です。
L’emploi Du Temps
♪ 試聴はJocelyn Pook L’emploi du temps (bande originale du film) – Allformusic.fr
Tony Takitani
「タイム・アウト」をインディペンデント映画祭として知られる Sundance Film Festival(サンダンス映画祭)で2005年にノミネート作品になった村上春樹の短編の映画化「トニー滝谷」に比べる向きもあるようですが私は未見なので分かりません。 この映画の主人公であるトニー滝谷はイラストレーターで、藤田嗣治やエドワード・ホッパーのような(?)無機質な絵を得意とするそうです。ご覧になった方は何か共通するものを感じられたのでしょうか。
Tokyo!/Tokyo Sonata (2008)
2008年のカンヌ映画祭に出品された「Tôkyô sonata(トウキョウソナタ)」は小泉今日子と役所広司が出演するホームドラマです。 いや単なるホームドラマではなく東京に住む一見ごく普通の4人家族なのに実はそれぞれが秘密をかかえている。 そんな家庭を舞台にある日突然家に飛び込んだ包丁強盗事件を織り込んで親子のドラマを描いているそうです。 家長と父権、不況と父の暴力、父が加害者になり得る社会状況、現在不況にあえいでいる諸外国でもリストラは真剣に受け止められ希望を見つけられるというタイムリーな題材だとか。 そしてこの「トウキョウソナタ」をオーレリアン・ルコワン主演の「タイム・アウト」と比較している評論もあります。 それにしても「タイム・アウト」といい、「トウキョウソナタ」といい家族を養う自負を持った夫あるいは父親が職を失うとは大変です。 では、女で良かったか? 今やそんな時代じゃない。
ちなみに”Time Out”(タイムアウト)には”罰としての短時間隔離”という意味もあるそうです。