Il Rossetto (1960年)
「くち紅(くちべに又は口紅)」」は1959年の「Un Maledetto Imbroglio(刑事)」に続くPietro Germi(ピエトロ・ジェルミ)の刑事映画で、フランス語のタイトルは”Jeux Précoces”で「早熟な駆け引きの意味」です。 13歳の少女の性の目覚め、大人の女への憧れを織り込んだ伊・仏合作映画です。
「くち紅」は脚本家であるDamiano Damiani(ダミアーノ・ダミアーニ)の監督デビュー作品で、1958年の「危険な曲り角」でデビューしたフランスの新進二枚目俳優のPierre Brice(ピエール・ブリス)が少女の憧れのハンサム青年”Gino(ジーノ)”役を演じます。 刑部役が「刑事」のPietro Germi(ピエトロ・ジェルミ)で、1956年の「Club de Femmes(Delitto blu/乙女の館)」でデビューしてその後主演映画も撮ったイタリアのグラマー女優のGeorgia Moll(ジョルジア・モル又はジョルジア・モール)がジーノの婚約者ロレーラ役で出演、そして音楽が当時売れっ子のGiovanni Fusco(ジョヴァンニ・フスコ)です。 おませな少女Silvana(シルバーナ)を演じるLaura Vivaldi(ラウラ・ビバルディ)はこの映画一本きりの出演となっています。
ちなみにピエール・ブリスのデビュー映画「危険な曲り角」(1958年)については主演したパスカル・プティと共演したジャン・ポール・ベルモンドでもふれています。
「くち紅」のあらすじ
映画は街角で人待ち顔でうろつく少女シルバーナ(ラウラ)をおませな女友達数人がからかうシーンで始まります。 そこに化粧品セールスマンだというジーノ・ルチアーニ(ピエール)が颯爽と車で登場し床屋へ。 そこから出てきたところをシルバーナが話しかけます。 気を引くためにジーノがギターで弾いているという曲を口笛で吹いてみせるのです。 女友達がシルバーナがジーノに恋しているなんてバラすもんだからシルバーナはそそくさと立ち去ってしまった。 家に帰れば裁縫師の母親(ベラ・ダルヴィ)が妻のいる男エンリコと電話で口論している最中だった。(母親は男のいうようにシルバーナを寄宿舎に送ると約束している) ボインに見えるかとシルバーナが自分のブラウスの前を摘むシーンは自分の部屋の鏡の前です。 シルバーナがベッドに寝そべった時に向かいのアパートからジーノがギターをかき鳴らす音が聞こえてきます。 なんとかジーノの気を引きたいと思うシルバーナ。
そんな頃、ジーノが住むアパートで昼頃に事件が起こり捜査にきた警察関係者の中にピエトロ・ジェルミが演じるフィオレシー警部がいます。 殺されたのは教師だという触れ込みの美しいナタリーナで実は売春婦です。 同じ階に住むジーノも事情聴取されますが連行されたのは酒場の配達係ヴィンセントでした。 凶器は肉叩き棒。 野次馬に来ていただけなのに捕らわれたヴィンセントは絶望して手首を切って自殺を企てます。 さて、被害者がジーノでは?と案じていたシルバーナはジーノが犯人ではないと知って安心します。 被害者が搬出される時、シルバーナはジーノに友達が話したことを訂正した後、ジーノが一週間前に被害者の家から出てくるのを見たことがあると話します。 ジーノはそれは見間違いに決まっているが誰かに聞かれたら自分は困ることになるとシルバーナに言います。 黙っているから大丈夫というシルバーナにジーノは追い討ちをかけ、明日の夜映画に行く予定を聞き出します。 ジーノに子供扱いされる13歳のシルバーナですが映画館に入るとすぐ壁にかかった鏡を見ながらバッグから取り出した口紅を塗ります。 席に座るとすぐ後ろにジーノが来て座りタバコに火を付けます。 探りを入れるためジーノはシルバーナの肩越しに「君の言葉で眠れなかった、あんな売春婦と関わったと警察が思ったら俺は御仕舞いだ」と囁きます。 絶対に喋らないとジーノを安心させたシルバーナは前方の席でキスを交わす恋人たちを見ながら「恋人はいるの?」と尋ねます。 否定したジーノは「もう遅いから映画の結末は明日話して」と帰っていきます。
乙女心を惑わすジーノには結婚を望む裕福な家庭の娘ロレーラとの交際がありますが、セールスマンの前身が酒場を回る流しが生業だったこともありロレーラの父親に反対されているという悩みがあります。 シルバーナの友達がジーノとロレーラを見かけて知らせたからシルバーナは二人が部屋から出てくるのを目撃してしまいます。 ジーノをなじるシルバーナを郊外の顧客の家までとドライブに誘い打ち解けたと思ったらダッシュボードに置かれた婚約指輪を見つけられてしまいます。 激昂したシルバーナをなだめながら追うジーノの手にはワインボトルが。 蹴つまずいて倒れたシルバーナはジーノに殴れば!とやけになって叫びますがそこに牧師と子供達の一団が通り過ぎます。 ふと気がつくとシルバーナははるか丘の下に。
ジーノが家に戻るとその前に警察が待っていました。 警察でジーノとすれ違ったのは釈放されたヴィンセントでした。 ジーノを待っていたフィオレシー警部(ジェルミ)はジーノの視力がまともなら同じ階に住むあのナタリーナを知っているだろうとか尋ねますが帰り際に不安になったジーノの方からシルバーナの話をします。 空想好きでおませな女の子がジーノがナタリーナの部屋から出るのを見たなんて作り話しをしたと。 これを聞き逃す警察ではない。 警部たちはシルバーナを街中で質問します。 ジーノが被害者ナタリーナの部屋から出てきたのを見たのか?ジーノに恋をしてないならどうしてこんな嘘をついたのか?
隣人が言うように昼にジーノがずっとギターを弾いていたか警察は現場検証を実行します。 刑事がジーノを演じナタリーナの部屋で犯行に及んで戻ると3分50秒。 それが済むとシルバーナが警察で事情聴取、ジーノはシルバーナにここぞとばかりあらん限りの悪態をつきます。映画館に行ったことも。 フィオレシー警部は母親は映画のことを知っているのか?と隣室で聴取を受けていた母親を呼ぶ。 ジーノと映画やドライブと聞いた母親は驚く。 フィオレシー警部はなぜジーノがシルバーナを郊外に連れ出したか?シルバーナに触れなかったか?と尋ねる。 頬にキスしたジーノ、ピンチ! 即刻シルバーナは医者の元に連れていかれる。 そしてジーノのフィアンセ(ロレーラ)が呼ばれた。 誤解を解こうと饒舌過ぎるジーノ、稼ぎは8万リラ弱なのに一月20万リラの生活費はどこから? そしてナタリーナの同業者たちも呼ばれ、音楽好きの彼がいると聞いたと話す。 針の筵の心境のジーノ。 フィオレシー警部はロレーラの前でジーノがナターリアと結婚の約束をしたに違いない。 その後に裕福なロレーラと出会ったのだ。 それでジーノはナターリアの口を封じる必要があった。 ジーノは宝石を盗んでから殺して窃盗犯のせいにしたのだと警部は決めつけ留置場送り。 無罪放免のシルバーナですが一人の刑事が今時の女の子の現状を知っているかとフィオレシー警部に言う。 母親が見ていない時には口紅なぞつけるような女の子。 ジーノにシルバーナが口紅をつけているのを見たか確認した警部はシルバーナのバッグを調べる。 シルバーナの友達も母親同伴で事情を聞かれて四面楚歌のシルバーナ。 嘘つきシルバーナのおかげでジーノは無罪放免。 シルバーナが取調室から出てくると哀れ、記者団のフラッシュ攻め。
施設送りになったシルバーナは夜になって一人部屋の外、友達やジーノの声が聞こえてくる。 隠し持った剃刀の刃、血だらけで倒れるシルバーナ。 書き置きは母親でなくジーノ宛。 警部は手紙をジーノに届けると約束する。
ジーノに会った警部はシルバーナの口紅のせいで証言を取りこぼす間違いを犯したと話す。 ジーノと一緒にロレーラの家に行った警部は二人の前でシルバーノの遺書を読み上げます。 13歳の少女がこれを書いた後に手首を切ったのです。 ジーノがナタリーナの部屋から出てきたと言ってもジーノがナタリーナを殺害したとは言ってない。 ただの嫉妬心だった。 大家が留守でもロレーラを部屋に呼ばなかったのはナタリーナがいたから。 留めにジーノが働いていたレストランの店主を呼び、ジーノを解雇した理由を言わせた。 店主の娘マルゲリータ、当時16歳に多額の持参金を狙って結婚を申し込んだのだった。 マルゲリータはなんと、足が不自由だったのです。 警部はロレーラにこれでもジーノと結婚するかと言うとロレーラは黙って部屋を出て行った。
Giallo
映画「くち紅」はピエトロ・ジェルミの一連の作品、「Il Ferroviere(鉄道員)」や「L’Uomo Di Paglia(わらの男)」や「刑事」などとは違って情報が乏しく余り知られていませんが、1959年の「刑事」あたりから黄表紙のペーパーバックで文学ジャンルのGiallo(ジャッロ又は ジャーロ)の映画化が60年代を通してイタリアで流行ったそうです。 残虐描写で有名なLucio Fulci(ルチオ・フルチ)が監督した1971年の「Una lucertola con la pelle di donna(幻想殺人)」のようなサスペンス・ミステリー及びスリラー映画のこと指すようですが、映画では事件そのものや推理よりもそれに関わる人々の内面を描いている社会派の作品です。(ジャッロのなかにはエロ本もあり) ジャロと呼ばれたイタリア映画は、元々はアメリカの大衆犯罪小説であるパルプフィクションを模して(翻訳)1930年代辺りから出版された黄表紙の推理小説のことです。 当時のジャロ映画としてはフランス俳優のAlain Delon(アラン・ドロン)が出演した1960年の「Plein Soleil(太陽がいっぱい)」や、1968年にアラン・ドロンがアメリカ俳優のCharles Bronson(チャールズ・ブロンソン)と共演した「Adieu L’ami(さらば友よ)」、チャールズ・ブロンソンが主演した1970年の「Cold Sweat(夜の訪問者)」、Albert Camus(アルベール・カミュ)の原作を映画化したLuchino Visconti(ルキノ・ヴィスコンティ)監督の1967年の「Lo straniero(Amare per vivere/The Stranger/異邦人)」、イタリア女優のJacqueline Sassard(ジャクリーヌ・ササール)が出演した1968年の「Les Biches(女鹿)」、Carroll Baker(キャロル・ベイカー)が1969年に主演したイタリアン・ミステリーの「Il Dolce Corpo Di Deborah(デボラの甘い肉体)」などもその範疇にあるとか。
早熟な乙女シルバーナの恋心が「ジーノの恋人としてふさわしいように……」と、大人の女性を象徴する「くち紅」をそっとつけてみる衝動に誘います。 それに「ジーノの婚約者みたいに……」と、セーターをつまんで小さな胸をふくらませてみたりも。 そんな大人の女性願望の少女がバッグにそっと忍ばせた1本の「くち紅」がもとで「嘘つき」の烙印を押され、「ジーノが犯人だ。」という殺人事件の証言は信用されずに少女は非情にも感化院送りとなってしまいます。 ジーノが釈放されてお金持ちのお嬢様との結婚も間近に控えているのを知って絶望した少女が試みた自殺も未遂に終わりましたが、その時に切々と想いを込めた遺書が事件の解決へと導くのです。 日本公開はイタリア公開の翌年、1961年あたりだったと思いますが劇場で観た時、オープニング・クレジットにドキュメンタリー風に事件の写真が続く画面に炸裂するかのように不安を誘う冒頭のテーマ曲”Paura”が流れとてもインパクトがありました。 その後Jean-Jacques Beineix(ジャン=ジャック・ベネックス)が監督した1981年の素晴らしい映画「Diva(ディーバ)」のあるシーンを観た時にふとこの映画を思い出しました。 大人の女性に憧れる少女Alba役のThuy An Luu(チュイ・アン・リュー)が鏡を見ながら服の下から胸にリンゴを入れたのでした。
☆イタリア語ですがダミアーノ・ダミアーニ監督の写真やシルバーナが憧れのジーノを想って「くち紅」を塗る写真が見られるRegia Damiano Damiani Photos – cinebazar.it(Giallo Malizioso)
この結果ジーノをかばった少女は自殺未遂まで犯すことになるのですが、ただ一つ、ジーノがペドファイル(少女偏愛主義者)でないのが救いです。
☆映画「くち紅」の映画ポスターとスチール写真が見られるイタリアのIl Rossetto Photos – FILM.TV.IT(写真拡大可)
Pierre Brice
フランス人俳優のピエール・ブリスは「くち紅」に出演した後、1965年の「Un dollaro bucato(荒野の1ドル銀貨)」などのマカロニウエスタンで有名なGiorgio Ferroni(ジョルジオ・フェローニ)の1961年の作品でアクションファンタジーの「Le Baccanti(バッカスの狂宴)」(バッコスの信女、もしくはバッカスの巫女たちの意味)やイタリアのゴシック・ホラーの「Mill of the Stone Women(生血を吸う女)」、1964年には「暗闇でドッキリ」に出演したエルケ・ソマーと「Douce violence(甘い暴力)」(1961年)で共演しています。 ピエール・ブリスは公開された主な映画が15年間ちょっとと日本では短命でしたが、ヨーロッパではマカロニウエスタンならぬジャーマン・ウエスタンに出演して人気だったそうです。 1962年の「Der Schatz im Silbersee(シルバーレークの待伏せ)」に始り、1968年迄に11本ものドイツのイタロ・ウエスタンに出演していましたが日本ではその半分ほどしか公開されていません。 「Winnetou(ヴィネトゥの冒険 -アパッチの若き勇者)」などの冒険物語の著書で知られるドイツの児童文学作家Karl May(カール・マイ又はカルル・マイ)の作品を元にした「カール・マイ冒険物語」の西部劇シリーズで、架空のThe Mescalero Apache-tribe(アパッチ・インディアン)大酋長であるWinnetou(ウィネットー又はウィンネット)役で有名になりました。
ピエール・ブリス自身はこの役から逃れようとしたらしいのですがかなりの人気があり、その後も同じ役を1988年から1991年迄ドイツの野外劇場でカルル・マイ・ショーとして上演した他、同じくテレビにも出演していました。 オリジナルのカルル・マイ版ではなかったのですが、1997年でさえ、この役でテレビに現れ、「英雄アパッチ酋長ウィンネットはWinnetou III で死んだハズなのに!」とファンのヒンシュクを買ったようでした。
Regia Damiano Damiani– A Udine e Pordenone una retrospettiva, un libro e una mostra di quadri
今では巨大資本のアメリカ映画が映画の主流となっている感がありますが、30年ほど前まではフランス映画と並びイタリアは映画大国でした。 ネオレアリズモがフランスのヌーベルヴァーグに影響を与えた程です。 それが80年代からはじり貧の一途をたどってきています。 60年代から70年代にはヴィスコンティとフェリーニの巨匠がイタリア映画界に君臨し、Uberto Pasolini(ウベルト・パゾリーニ)やその助手だったBernardo Bertolucci (ベルナルド・ベルトルッチ)、マカロニ・ウエスタンの父と呼ばれたSergio Leone(セルジオ・レオーネ)などが現れるなか、ダミアーノ・ダミアーニは大変有望視された監督だったそうです。 ダミアーノ・ダミアーニはイタリア社会の諸悪、プチブル、庶民生活を描いた社会派の映画監督の一人なのです。 とはいうものの、「くち紅」の後の1962年にはカルロ・ルスティケッリとNino Rota(ニーノ・ロータ)の音楽で、Elio Bruno e la sua Orchestra(エリオ・ブルーノ楽団)のテーマ曲がヒットしたサン・セバスチャン映画祭で最優秀映画賞受賞の「L’Isola Di Arturo(禁じられた恋の島)」や、1963年には「Monpti(モンプチ)」に出演したHorst Buchholz(ホルスト・ブッフホルツ)とCatherine Spaak(カトリーヌ・スパーク)が共演した「La Noia(禁じられた抱擁)」とか、マカロニウエスタンの「Chucho, quién sabe, El?(A Bullet For A General/群盗荒野を裂く)」、1969年には再びスパーク主演で「Una ragazza piuttosto complicata(痴情の森)」なども監督しています。 「禁じられた抱擁」には、1962年の「What Ever Happened to Baby Jane?(ジェーンに何が起こったのか?)」以降ホラー映画が多くなってしまった往年のハリウッド女優のBette Davis(ベティ・デイヴィス)がホルスト・ブッフホルツの母親役で出演していたので驚きました。
脚本家であり画家でもあるダミアーノ・ダミアーニの作品は絵画のように芸術的でありながら、映画界からは忘却の彼方に置かれた状況にあります。 現在イタリア国内の復興ムードのなか、ダミアーノ・ダミアーニの作品が見直されて、この60年の作品「くち紅」も注目されているようです。 リプリントされるかも! 復刻版がリリースされますように。
Il Rossetto DVD
Medusa Il rossetto (I classici del cinema Italiano)
ページトップの画像はアメリカのAmazon.comで見つけたDVDですが現在は入手困難となりました。 イタリアのMedusa Videoから2006年にリリースされたという「Il Rossetto」は言語がイタリア語で字幕なしのRegion 2ですがPAL仕様となっています。
注!PALは主にヨーロッパで使用されている映像方式で、日本と合衆国はNTSC方式ですので購入しても国内では白黒になってしまってDVDプレイヤーの設定を変えないと普通は観られないそうです。
☆手書き風ビデオカバー画像が見られるフランスのサイトはJeux Précoces – MOVIECOVERS.com
Miranda Martino: Signora della Canzone Napoletana
映画「くち紅」の音楽はMichelangelo Antonioni(ミケランジェロ・アントニオーニ)が監督の多くの映画で音楽を手掛けたGiovanni Fusco(ジョヴァンニ・フスコ)でEnnio Morricone(エンニオ・モリコーネ)の指揮によるオーケストラの演奏ですが、映画のテーマ曲である”Paura“を歌うのは当時新人カンツォーネ歌手のMiranda Martino(ミランダ・マルティーノ)です。 劇場で公開された当時、この映画を劇場で観た時、先ず映画の冒頭に流れた主題歌に魅せられました。 ちょうど「L’Eclisse(太陽はひとりぼっち)」でミーナが歌った”L’elisseTwist”や「情事」でNico Fidenco(ニコ・フィデンコ)が歌った”Trust Me”のような感じです。 映画の中盤にジーノがシルバーナの疑いを晴らそうと努力する最中に顧客のところに寄ると車で連れて行った時、男性歌手の歌声で”Paura”が聞こえてきます。(ジーノがシルバーナの頬にキス) もう一曲、静かなメロディの”Momento Meraviglioso(素敵なひととき)”という曲は随所で流れます。
テーマ曲を歌った生粋のナポリッ子のミランダ・マルティーノは1955年にイタリア国営放送の「RAI」の新人コンテストに出場し「ニューヴォイス」に選ばれてデビューしました。 主にラジオで活動していましたが、1959年にはサンレモ音楽祭に初出場しています。 「ミセス・ナポリ民謡」と呼ばれ、伝統的イタリア民謡(ナポリ歌謡)Napoletana(ナポレターナ)を歌っています。 日本でも”Torna a Surriento(帰れソレントへ)”や”‘O sole mio(オーソレミオ 我が太陽)”などのナポリ民謡は有名ですね。 最近でもEnnio Morricone(エンニオ・モリコーネ)のアレンジで数々のアルバムをリリースしています。
ミランダ・マルティーノの映画出演作品はMiranda Martino – IMDb
美貌の歌手、ミランダ・マルティーノは女優としても活躍しており、1959年代から2000年までに13本の映画に出演し、そのうち歌手としての出演は4作です。
Paura e Maraviglioso Momento: Dal Film “Il Rossetto”
Miranda Martino(ミランダ・マルティーノ)の歌う「くち紅」のテーマ曲「Paura」が聴けるWFMUラジオ・ショーのプレイリストは①Playlist for Stochastic Hit Parade with Bethany Ryker – May 7, 2002や②Playlist for Are We There Yet? with Tamar – December 21, 2002(ページ上の方の”Listen to this show: RealAudio”をクリック して、RealAudioのクリップ・ポジション(再生バー)を①は49:40(John Coltrane の次)、②のプレイリストは41:20(ギリシャ音楽の次)に移動させる。
これらのプレイリストにあるミランダ・マルティーノの「くち紅」のテーマ”Paura”が収録してあるCDは日本レーベルの「Selections from Ennio Morricone Chronicles」としてあります。
くち紅のテーマ Victor SS-1257
A面が「くち紅」のテーマ曲 Paura(怖いの)で映画のオープニングに流れますが、B面のMomento Meraviglioso(素敵なひととき)はPauraとガラっと変わってスローバラードで、遺書を書くシルバーナの悲しい心を歌ったものです。 公開当時に映画を観てこの歌に惹かれた私はミランダ・マルティーノのEPシングル盤を購入しました。
Paura
Ti guardo…Mi piacci
Ma tremo se tu guardi me
Paure…mi fanno
I baci che sogno con te
Se mi chiamerai
Forse mi girero
Tu non Saprai mai
Quanto soffriro
Ti cerco…mi piacci
Ma tu non cercarrmi
Perch no troppa paura
Paure di perdermi in te
アンタを見つめるわ、好きだから
でも見つめれると震えるの
怖いわ
夢にみるキスがそうさせるの
もしアタシを呼んだら
アタシは逃げるわ
アンタは絶対わかりっこない
どんなに憎んでいるか
アンタを探すわ、好きだから
でもアタシのところに来ないで
だって、怖過ぎるの
アンタに溺れるのが
(と、こんなような意味でしょうか)
♪ Miranda Martino – Paura – YouTube
Ennio Morricone Collection
外国映画はたいていイタリア語に吹き替えるイタリアではイタリア版の映画にはイタリアのポップス歌手がテーマ曲を歌うことが常です。 オリジナルの作曲家にも匹敵すると称賛されるエンニオ・モリコーネがこういったイタリアン・ポップスの編曲・指揮をしています。 例えば1963年のアメリカ映画「ピンクの豹」のサウンドトラックはHenry Mancini(ヘンリー・マンシーニ)作曲のテーマ曲とコーラスが収録されていますが、映画の中でギリシャ系の歌う女優であるFran Jeffries(フラン・ジェフリーズ)が歌った英語タイトルのIt Had Better Be Tonightはリリースされずに、イタリア版映画の「ピンクの豹」にはイタリアの歌手!ということで、エンニオ・モリコーネのアレンジによりミランダ・マルティーノが挿入歌の”Meglio Stasera”(Vinyl-7″ RCA PM45-3231 – Italy – 1963)」をリリースしているそうです。
“ピンクの豹”と”くち紅のテーマ”が収録されているGiovanni Fuscoのレコードは1960年にリリースされたとか。(BMG BVCM-37063-72) 現在は下記に記した2枚組国内盤の「エンニオ・モリコーネ・クロニクル(Ennio Morricone Chronicles)」
その後エンニオ・モリコーネは演奏バージョンも編曲してアルバムに収録しているそうです。
フランス映画「太陽はひとりぼっち」ではジョヴァンニ・フスコのオリジナルテーマ曲をイタリアではポップスにしてツイストのリズムでミーナが歌ったように、現在日本でも「マダガスカル」ではPANGが、奥さまは魔女では松田聖子、「シン・シティ」では安室奈美恵(Namie Amuro)などと日本語バージョンが劇場で流れるようになったそうです。
Selections from Ennio Morricone Chronicles
映画ファンなら必携のEnnio Morricone(エンニオ・モリコーネ)のサウンドトラック集は2000年発売の2枚組(上記)と10枚組ディスクセットがあります。 「くち紅」のテーマを始め懐かしい映画音楽が収録されている日本製作のモリコーネ集大成です。
ザ・ヴェリー・ベスト・オブ・エンニオ・モリコーネ
試聴はSelections from Chronicle – AllMusic.com
上記の画像のアルバムは2枚組ですが、試聴をリンクした10枚組のアルバム「The Ennio Morricone Chronicles」では、disc 2の1番と2番が「くち紅」、3番が「情事」、5番が「鉄道員」、disc 3の17番が「太陽のバカンス」、disc 6の1番から4番までが”サンライト・ツイスト”など「太陽の下の18才」、5番が「狂ったバカンス」、20番と21番は「La Battaglia Di Algeri”(アルジェの戦い)」、disc 7の7番から10番は「Menage All’italiana(イタリア式家政)」、12番と13番がパゾリーニの「Uccellacci E Uccellini(大きな鳥と小さな鳥)」、14番は「I Pugni in Tasca(ポケットの中の握り拳)」、15番は「Svegliati E Uccidi(目をさまして殺せ)」、153番はアンソニー・クィンと リタ・ヘイワースが出演した1967年の「The Rover(残虐の掟)」、20番は「L’Harem(ハーレム)」、disc 8の9番と10番は「死刑台のメロディ」、22番と23番は「Per le Antiche Scale”(古い階段の下で)」、disc 10の2番と3番が口笛で有名な「Per un Pugno Di Dollari(荒野の用心棒)」、4番から6番が「Per qualche dollaro in più(夕陽のガンマン)」、9番から11番までが「Una pistola per Ringo(夕陽の用心棒)」、13番と14番は「da Uomo a Uomo(新・夕陽のガンマン/復讐の旅)」、15番から18番までが「Once upon a Time in the West(C’era Una Volta il West / ウエスタン)」などなどです。
☆10枚組CDのdisc 5の10番にはジャズトランペッターのChet Baker(チェット・ベイカー)がイタリア時代にエンニオ・モリコーネ楽団をバックに歌った”Chetty’s Lullaby”も収録されています。
「Django(さすらいのジャンゴ)」のテーマソングで有名な1966年のマカロニウエスタンの「Django(続・荒野の用心棒)」の音楽はアルゼンチン出身のLuis Enríquez Bacalov(ルイス・エンリケス)で、サントラの「Roberto Fia & Bruno Nicolai [OST]」に収録されているRoberto Fia(ロベルト・フィア)が歌ったイタリア語バージョンの主題歌が人気らしいです。 日本でもリリースされたサントラは「Django: The Definitive Edition(Django: Main Theme Collection)」(ASIN: B00004WHCL ASIN: B000M2EAKW)
Django, have you always been alone…と歌われるジャンゴの英語歌詞はLyrics Spot.com – Django by Luis Bacalov
1962年に大ヒットした「Diciottenni Al Sole(太陽の下の18才)」は英語のタイトルを「Eighteen in the Sun」という当時アイドルのCatherine Spaak(カトリーヌ・スパーク)出演の青春イタリア映画です。 テーマ曲はエンニオ・モリコーネ作曲でJimmy Fontana(ジミー・フォンタナ)作詞でGianni Morandi(ジャンニ・モランディ)が歌ったGo-Kart Twist(ゴーカート・ツィスト/サンライトツイスト)です。 同じくTwist No.9もエンニオ・モリコーネ作曲でジミー・フォンタナが歌いました。
E gira e gira e vai, E non fermarti mai と歌われたGianni MorandiのGo-Kart Twistの歌詞はGo-Kart Twist – Lyrics Mania
60年代に日本で流行ったポップスのコンピレーション・アルバムですが1万円近いヴィンテージ価格でも人気!の「ベスト・オブ・S盤アワー60s」(ASIN: B00009V9KZ)にジミー・フォンタナの「太陽の下の18才」とジャンニ・モランディの「サンライト・ツイスト」そしてエンニオ・モリコーネの「さすらいの口笛」が収録されています。
Neapolitan Songs by Ennio Morricone & Miranda Martino
現在でも人気の高い1995年リリースのCDはエンニオ・モリコーネ編曲でミランダ・マルティーノが歌うナポレターナの名曲から1963年から1965年の録音を収録したものです。(モリコーネのアレンジも1960年代当時のもの)
「Neopolitan Songs」(ASIN: B0000072CE)
1番が’E spingole frangese(こいきなフランス・ピン)、2番がSilenzio cantatore(静けさに歌う)、14番が有名なTorna a Surriento(帰れソレントへ)、16番はTu ca nun chiagne(泣かないお前)、20番も有名な’O sole mio(オ・ソーレ・ミオ)
♪ Ennio Morricone – E spingole frangese – Neapolitan songs – YouTube
Ennio Morricone – Silenzio cantatore Neapolitan songs – YouTube
Audio-Visual Trivia内のイタリア映画
ミケランジェロ・アントニオーニの「太陽はひとりぼっち」
ピエトロ・ジェルミの「刑事」
ヴァレリオ・ズルニーニの「激しい季節」
フェデリコ・フェリーニの「カサノバ」
ジャクリーヌ・ササール
アンソニー・クイン
ジーナ・ロロブリジーダ
そうなんだ~ダミアーノ・ダミアーニってなかなかの監督さんだったんですね。以前自分のブログにも書いた「シシリアの恋人」しか見ていなくて、価値がわかっていませんでしたな~
そう、でも、昔はイタリア映画って勢いありました。「スクリーン」のファン投票でも、ソフィア・ローレン、クラウディア・カルディナーレなどが常連だったし、ジュリアーノ・ジェンマ・・とかもね。
今は・・いないですよね~
anupamさん、お待ちしていました! 以前そちらのコメントに「くち紅」が待機中と書いたのですが、なかなかミランダ・マルティーノのテーマ曲が聴けるサイトが見つからなくて今になりました。 あの頃はアメリカ映画よりフランスとイタリア映画の公開が多かったように感じるほど豊富でしたね。 イタリア映画の衰退の一因はテレビらしいですよ。
ダミアーノのインポート盤VHSの「禁じられた恋の島」はありますか。
残念ながらお探しのVHSは私がアフィリエイトに参加している日本とアメリカとフランスのAmazonでも見つかりません。イギリスのeBeyやYahoo!オークションにもありませんが今後出品されるのをチェックしてみてください。
日本でダミアノ・ダミアニ監督のイタリア映画『LA RIMPATRIATA』の主題歌が発売されていました。私のブログ https://ameblo.jp/cnz27hiro/entry-12504151927.html をご覧ください。
ミランダ・マルディーノの歌った「くち紅」の主題歌は、こちらに https://ameblo.jp/cnz27hiro/entry-12504146680.html
リタ・パヴォーネの歌った「禁じられた抱擁」の主題歌は、こちらに https://ameblo.jp/cnz27hiro/entry-12504162291.html
書いてありますので、よろしければご覧ください。
詳しい情報満載の素晴らしい記事をお知らせ下さってありがとうございます。
私が高校生当時に購入したミランダ・マルティーノの口紅のテーマは貴サイトにシングルレコードの画像があったSS-1257盤でした。