Town Without Pity VHS
Four Men, Christine Kaufmann and Kirk Douglas
非情の町 (1961年)
「非情の町」のドイツ語のタイトルは”Stadt öhne Mitleid(思いやりの無い都市)”というそうで、Manfred Gregor(マンフレッド・グレゴール)もしくはErwin C. Dietrich(エルウィン・C・ディートリッヒ)が書いた小説「The Verdict(Stadt ohne Mitleid)/裁決)」を元に、Jan Lustig(ジャン・ラスティグ)の脚色によりGottfried Reinhardt(ゴットフリード・ラインハルト)が制作及び監督した或る種の戦争映画です。 ゴットフリード・ラインハルトというとヴィンセント・ミネリと共同で1953年にSergei Rachmaninoff(ラフマニノフ)作曲の”Rhapsody On a Theme of Paganini (パガニーニの主題による狂詩曲)”がテーマ曲だったロマンチックな映画「The Story Of Three Loves(三つの恋の物語)」を監督しています。 なんと幼いRicky Nelson(リッキー・ネルソン)がハンサムな男性になって家庭教師と恋をする少年トミー役で出演しているのです。
世界中で、又日本の沖縄でも、外国(主にアメリカ)駐留軍基地が存在する国では現在ですら何度も繰り返される米兵の犯罪問題を扱った忘れ難い映画の一つです。 第二次大戦後を背景に、戦場の戦いを描いているわけではありませんが、東と西に分断されてしまった敗戦国ドイツの人々の心の葛藤の一面を痛烈に描いた社会派ドラマです。 しかしIngmar Bergman(イングマール・ベルイマン)が監督した16世紀のスエーデン伝説のような「Jungfrukällan(処女の泉)」で描写されたリアリスティックなレイプ・シーンは「非情の町」の見せ場ではありません。(悲劇のヒロインの名は同じくカリン(カーリン)でした)
弁証法に長けていれば、つまり腕利きの弁護士にかかれば、有罪を宣告されるべき犯罪者が無罪を勝ち取ることが出来るという「法又は司法」の驚くべき順応性をまざまざと示してくれる「非情の町」で主演するのは、俳優になる前は法律を学んでいたというまさに適役のKirk Douglas(カーク・ダグラス)です。(2020年2月に105歳で逝去)
カーク・ダグラスは不本意ながらも任務(軍務)として駐屯地の犯罪者となった米兵(G. I.)4人の弁護側に立つ米軍法務部のMaj. Steve Garrett(ギャレット米軍少佐)を熱演します。 一方、被害者でありながら法廷で次々と不利な証拠や落ち度を指摘され世間(町の住人)からスキャンダルの的にされた不運なドイツ娘のKarin(カリン)は可憐なChristine Kaufmann(クリスティーネ・カウフマン)です。 16歳のカリンは両親が思っていたほど子供じゃなかったという大人になりかけた少女の微妙な心理を見事に演じます。 その他にGerhart Lippertはカリンのボーイフレンドのフランク、 1967年の「冷血」でペリー・スミスを演じたRobert Blake(ロバート・ブレイク)は最年少の兵士です。 他の仲間はRichard Jaeckel、Frank SuttonとMal Sondockが演じます。 デンマークで海外特派員などしていたドイツ女優のBarbara Rütting(Rueting バーバラ・リュッティング)が超興味本位のレポーター、そして1957年に「12 Angry Men(十二人の怒れる男)」で陪審員4番を演じたE. G. Marshall(E・G・マーシャル)はこの映画では検事をつとめるパケナム大佐です。 EGマーシャルといえば私には1974年から1982年に放送されたラジオドラマの「CBS Radio Mystery Theater(ミステリーシアター)」のナレーターが記憶にあります。
カリンにとっての非情の町なのか、カリンを犯した米兵達にとっての非情の町なのか、それともいったい誰にとって……
時代は第二次世界大戦後のドイツ(当時は分割されて西ドイツ)、米軍が駐屯しているある田舎の町を舞台に、4人の若い米兵によるドイツ娘への輪姦事件がテーマとなった一種の法廷劇です。 もしも、被害者のカリンが出廷しなければ、単純明快に犯罪を犯した兵士達が軍法会議にかけられて刑に服するだけで終わる筈だったのです。 しかし、カリンの両親や町側(市長)は駐留軍の兵士たちに死刑を望んだことにより、起訴された米軍兵士の弁護を引き受けるはめになったのがギャレット少佐です。 このたぐいの事件の証言がいかなるものかを熟知したギャレット少佐はカリンの出廷を避けるべく両親を説得するのですが報復に燃える彼らを抑えることは出来ませんでした。 一般に、微に入り細にわたり事件の様子を述べなければならない裁判は被害者の女性にとって耐え難いことです。
一旦裁判が行われることになれば、ギャレット少佐が米兵側に有利な証拠を引き出すための執拗な追求によりレイプの被害者である筈の無力なカリンが証言台に立ち、さらにさらに傷ついていくという悲劇です。 傷口に塩をなすり込むようなもの。 思春期の少女の悪戯心からボーイフレンドを誘惑したいばかりにとった行動が酔った米兵の餌食となってしまったカリン役のクリスティーネ・カウフマンの必死の演技がよりいっそう身につまされます。
軍も村もそしてなんと少女の家族さえも、誰も被害者である少女”カリン”の傷を癒すことなど眼中に無く無益な報復に夢中になり、大衆の娯楽を提供する噂と醜聞のマスコミ攻勢も相まって非情の町と成り果てます。 大衆はこの事件に対して何の怒りなど感じてはいません、 ただ好色な興味だけで面白がっているのです。 米兵の極刑(死刑)を避けるべく、つまり人間の命を救うという任務遂行のために、非情にもうら若き乙女のカリンを証人席に立たせ、法廷では勝利を得たギャレット少佐です。 しかし予測していたこととはいえ、実際に自分の弁護がカリンを追い詰め社会の除け者にし、そしてカリンを破滅に追いやったあげく、その命を奪ったことを知り悶絶します。 但し外見上は何の感情も見せずに立ち去るのです。
ギャレット少佐の嘔吐は、あるものの存在をありありと実感して吐き気をもよおすといったサルトルの哲学に関連するのかもしれません。
Town Without Pity Trailer 1961 – YouTube
「非情の町」の写真が見られるLa città spietata – FILM.TV.IT
ロシア系アメリカ人のカーク・ダグラスが通った俳優養成所の同期生にはなんとボギーの奥様だった「脱出」のローレン・バコールがいたそうです。 バコールの紹介で映画製作者のハル・B・ウォリスと知り合い、その後1946年のLewis Milestone(ルイス・マイルストン)が監督するフィルム・ノワールの「The Strange Love of Martha Ivers(呪いの血)」でデビューした後、1954年にイタリア映画の「Ulisse(ユリシーズ)」でAnthony Quinn(アンソニー・クイン)やSilvana Mangano(シルヴァーナ・マンガーノ)やRossana Podestà(ロッサナ・ポデスタ)などと共演しました。 Homeros(ホメロス)が書いた古代ギリシャ叙事詩「Odysseia(オデュッセイア)」を基にしたJames Joyce(ジェイムズ・ジョイス)の1922年の難解な小説の映画化した「Ulysses(ユリシーズ)」は50年代や60年代に流行った歴史的活劇映画とはちょっと違いますが、カーク・ダグラスはTony Curtis(トニー・カーティス)と共に1957年の「The Vikings(バイキング)」や「ロリータ」のStanley Kubrick(スタンリー・キューブリック)が監督した1960年の「Spartacus(スパルタカス)」が有名ですが、1954年の「20,000 Leagues Under the Sea(海底二万哩)」では銛射ち水夫のネッド役でコミカルな演技を見せています。 原作のホメロスのオデュッセイアで印象に残ったのは「殺戮の後に流れた血を消すために床に硫黄を撒いて又宴会を始める」くだりです。 カーク・ダグラスは活劇だけではなく1950年に「Young Man with a Horn(情熱の狂想曲)」、1951年に「Ace In The Hole(地獄の英雄)」、1956年には「Lust for Life(炎の人ゴッホ)」で苦悩する画家など多岐に渡る役柄を熱演しています。
ビートニクにもヒッピーにもなれなかったというアメリカの作家”Ken Kesey(ケン・キージー)”原作の1963年の小説を元にした舞台「One Flew Over The Cuckoo’s Nest(カッコーの巣の上で)」にカーク・ダグラスが出演し高評を得ました。 舞台劇の映画化権を獲得したものの映画化至らず、後の1975年に父の意思を継いだ息子で「ジュエルに気をつけろ!」のマイケル・ダグラスによって「One Flew Over The Cuckoo’s Nest(カッコーの巣の上で)」が制作され、「Chinatown(チャイナタウン)」のJack Nicholson(ジャック・ニコルソン)が精神病患者のフリをして最後はロボトミー植物人間にされる男の役を主演してアカデミーの主演男優賞を受賞した他全5部門で受賞しました。
文武両道に秀でた俳優のカーク・ダグラスは西部劇やスペクタクル映画で名を馳せましたが、西洋ではアゴが割れているとセクシーなんだそうです。(けつアゴ)
カーク・ダグラスは90年代に起きた脳卒中による身体麻痺を克服して1999年のコメディ「Diamonds」でダイアモンド探しの元ボクサー役でローレン・バコールと共演しています。
Christine Kaufmann
「非情の町」に出演する以前に1958年の14歳でのデビュー作「Kleines Herz in Grosser Not(幼な心)」や「Mädchen in Uniform – Jeunes filles en uniforme(制服の処女)」で既に人気スターとなっていたオーストリア出身の清純派女優”Christine Kaufmann(クリスティーネ・カウフマン)”はこの年、1961年のゴールデン・グローブ で有望若手女優賞を受賞しています。 少女だとばかり思っていたクリスティーネ・カウフマンが「Taras Bulba (隊長ブーリバ)」で共演した20歳も年上のアメリカの二枚目俳優「お熱いのがお好き」のトニー・カーティスと不倫の末、結婚した時は驚きました。 その後離婚したトニー・カーティスは元の鞘に納まったと聞いたのですがどうやら2度の結婚と離婚を繰り返したそうです。
☆クリスティーネ・カウフマンの写真が見られるChristine Kaufmann – FILM.TV.IT
Murders in the Rue Morgue
1971年にクリスティーネ・カウフマンが出演した日本未公開のミステリー映画「Murders in the Rue Morgue(モルグ街の殺人)」はEdgar Allan Poe(エドガー・アラン・ポー)の原作に名を借りてGordon Hessler(ゴードン・ヘスラー)監督が18世紀のパリを舞台に「The Phantom of the Opera(オペラ座の怪人)」風に映画化した異色作品です。 素晴らしい衣装を次々と見せたヒロインのマドレーヌを美しいクリスティーネ・カウフマンが演じましたが、1967年の「Madigan(刑事マディガン)」でノミ屋のミッチ(ミジェット)を演じた身長1m17cm体重35kgの小人俳優のMichael Dunn(マイケル・ダン)がPierre Triboulet(ピエール・トリブレ)を演じています。 オープニングの恐怖を誘うタイトルデザインはスペインのJosé Luis Galiciaが手がけたのかは不明ですが美術を手掛けました。 冒頭のシーンは映画の中での「モルグ街の殺人」の芝居だったのです。(アラン・ポーはこれ以外は無関係) この悲劇はカーテンコールに応える主人公やスタッフの陰で涙する怪獣(エリック)じゃなくて、斧で殺されたヒロインの母の愛人で舞台で本物の塩酸で顔に大火傷を負い自害したとされていたルネ・マローの存在です。 マローの片腕となっているピエールをこの映画の2年後に亡くなったマイケル・ダンが演じています。(博学多才なマイケル・ダンは米国人ですがホロコーストの生存者かも) ヒロインの夫はヒロインの死んだ母親と結婚していた一座の座長なのですが、棺抜けマジックのルイジなど事件に関わった劇団員が次々と塩酸をかけられて死んでいきます。 母親の家を訪ねるまでは、幼き日に目撃したあの出来事を思い出すまでは、夢魔に悩まされ続けるヒロインを演じたクリスティーネ・カウフマンが映画内の芝居で檻のゴリラに首を絞められた時に斧を振り上げた座長の夫を見て気絶したシーンの写真が見られるChristine Kaufmann – Murders in the Rue Morgue – Midnightonly.com
輸入版(英語)VHSは「Murders in the Rue Morgue」(ASIN: 6302037271)
Town Without Pity VHS
ページトップの画像は1996年に販売された輸入版の原語版VHSです。(ドイツ語と英語)
こちらは日本語字幕版の「非情の町」1990年版VHSですがヴィンテージ価格です。
「非情の町」で思い出すのは似たような映画で、1957年に郵便配達は二度ベルを鳴らすのラナ・ターナーがアカデミー主演女優賞を受賞した映画「Peyton Place(青春物語)」という秀作があり、学校が舞台ですが閉鎖的な小さな町で起こる「非情の町」よりもっとグチャグチャの問題を扱った映画です。 その後1964年からミア・ファローも出演したテレビシリーズ「ペイトンプレイス物語」が始りましたが、当時はポルノ呼ばわりされたそうです。
「非情の町」の音楽は素晴らしき哉、人生!などの音楽を手掛けているDimitri Tiomkin(ディミトリ・ティオムキン)とクリント・イーストウッドが出演したテレビ西部劇「Rawhide(ローハイド)」の音楽を担当したNed Washington(ネッド・ワシントン)です。 ネッド・ワシントン作詞でディミトリ・ティオムキン作曲のテーマ曲”Town Without Pity(非情の町)”はアカデミー賞にノミネートされ、1961年のゴールデン・グローブで歌曲賞に輝きました。
映画の中では冒頭から全編通して食堂のジュークボックスで繰り返し流され、映画そのものよりも記憶に残るヒット曲です。
私の手持ちのジーン・ピットニーのEPレコード「非情の町」の説明書には、16歳らしい白いエリにチェックのワンピース姿のクリスティーネ・カウフマンがちょこんと椅子にかけ、鬼のようなカーク・ダグラスが尋問している写真が載っています。 ちなみに老いてもなお美しかったクリスティーネ・カウフマンは2017年72歳にして白血病で亡くなりました。
「when you’re young and so and love as we…」とジーン・ピットニーが切なく歌う”Town Without Pity”の歌詞はTown Without Pity lyrics – Midnightangel308.com(注!すぐ音)
☆ジーン・ピットニーについてもっと詳しくはAudio-Visual Trivia内のジーン・ピットニー Gene Pitney
「制服の処女」は中学のとき招待券をもらったのですが行きませんでした。日比谷スカラ座だったような。この作品にC・カウフマンが出ていたとは初耳で、「ポンペイ最後の日」にも出ている訳ですね。
『非情の町」はティオムキンの「方」が作詞なんですか?。今の今まで作曲ばかりと思っていました。帰京したらEP探します。けだるい雰囲気の曲でしたね。
そうそう行方不明だった「ペイトンプレイス」はここでしたね。
残念ながら「青春物語」は観ておりません。
後編と言われ、実際はリメイクの「青春の旅情」を高2(S37?)の時観ました。火曜日の女優さんやポセイドンまで頑張ったキャロル・リンレーを20世紀FOXは懸命になって売り出そうとしたのでしょう。ラストにC・リンレーとS・グレンジャーが丘の上から町を見下ろす光景が曖昧な記憶の中にあります。
TVはNHKがモノクロ(当然)でやっていましたが姉は毎週観ていたようですが私はそこまで
当時は早熟ではなかったモンで・・・・。
「制服の処女」は東和映画の川喜多かしこ女史が始めてプロモートしたヨーロッパ映画ということです。これが大当たりだったのでその後次々と公開されたようです。
作詞作曲の件は相当調べたつもりでしたが、おっしゃるように1961年のアカデミー賞では作曲がディミトリ・ティオムキンでネッド・ワシントンが作詞となっていましたので本文も訂正致します。 なにしろ両名ともに作曲者なので迷ってしまいました。
ありがとうございます。
どういたしまして。100億分の1くらいの御礼です。
実は当時は西部劇ばかり観てましたから今のR・ウイリアムスに共通点があるようにティオムキンの音楽も映画観てるだけで分かるようになりました。ジョン・ウエインの「アラモ」が彼の集大成とばかり同じリズム、メロディです。
ミーハーな私ですがこれだけは友人に褒められました。
あくまで個人的なヤマカンですがチャイコフスキーに影響されたようなと言った素人考えです。ご存命なら確認したいところです。
J・ウイリアムスが正解です。申し訳ないです。
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