Helen Merrill
ニューヨーク生まれのヘレン・メリルは現在60年という長いキャリアを誇るジャズ・ヴォーカリストで、ちょっとMarilyn Monroe(マリリン・モンロー)がハスキーになったようなセクシー・ヴォイスです。 クロアチア(旧ユーゴスラビア)移民の子としてブロンクスに育ったヘレン・メリルは14歳の時からクラブで歌いはじめ、1954年にはMercuryレコードから「Helen Merrill」でLPデビューしましたが、1956年にGil Evans(ギル・エヴァンス)がアレンジした”Dream Of You”を歌ってメジャーなクールジャズの歌手の地位を確立しました。 1954年から1956年までの録音を収録したアルバム「Dream Of You」を1957年にEmarcyからリリースしています。タイトル曲の他にI’m a Fool to Want Youなどジャズのスタンダードを22曲収録したアルバムではトランペットにArt Farmer、ピアノにHank Jones(ハンク・ジョーンズ)、ベースにOscar Pettiford(オスカー・ペティフォード)、ドラムにJoe Morello(ジョー・モレロ)も参加しています。(試聴はアメリカのAmazon.comでASIN: B00139WYLA)
なんといっても50年代にリリースされたヘレン・メリルのアルバムとして極めつけは前述の「Helen Merrill」で、トランペッターのClifford Brown(クリフォード・ブラウン)とベースのOscar Pettiford(オスカー・ペティフォード)と共演したハスキーなヘレン・メリルの歌声のデビューLPは「ニューヨークのため息」といわれ大変な評価を得て代表作品となっています。 60年代以降70年後半まではイタリアと日本に滞在して音楽活動を続けていましたので本国アメリカよりも日本やヨーロッパでの人気が高いようです。
最初の夫であるサックス(クラリネット)奏者のAaron Sachs(アーロン・サクス)との離婚後(1956年)、ヘレン・メリルは1967年の日本ツアーから5年間ほど日本に滞在してアルバムを製作する他、ラジオ番組にも関わったそうです。 その時に同伴していた息子のAlan Merrill(アラン・メリル)は短期間でしたが、日本のロックバンドに参加してギターとヴォーカルを担当したこともあります。 来日して最初のバンドは他の外人メンバーが本国送還になってしまい活動する前に尻切れトンポとなってしまいましたが、そのバンドには私の身内が参加していたのでマーク・レスターばりの美青年のアランのバンド結成当時の写真を見せてもらいました。
アラン・メリルは70年代に入って”Arrows(アローズ)”という外人トリオを結成した後に、ムッシュ・カマヤツ(カマヤツ・ヒロシ)も参加した”Vodka Collins(ウォッカ・コリンズ)”というグラムロック・バンドを元テンプターズに在籍していた”Hiroshi Oguchi(大口ひろし) “と結成し、リードシンガーとして活躍、1970年の大阪万博にも出演したそうです。(”ゆれる、まなざし”の真行寺君枝と結婚した大口広司は2009年1月に58歳で亡くなり、2010年1月の追悼ライヴにはアラン・メリルやかまやつひろしも参加)
アラン・メリル、コロナの犠牲に。 89歳という高齢の母を残して2020年3月末にアランは世界に蔓延した新型コロナ・ウイルス(COVID-19)に感染したことから69歳で亡くなりました。
Helen Merrill with Clifford Brown
当時若干21歳のQuincy Jones(クインシー・ジョーンズ)の編曲及びプロデュースによるヘレン・メリルのLPはトランペッターのクリフォード・ブラウンとベースのオスカー・ペティフォードとの共演盤は絶賛されました。 そのレコーディングの1年半後に20代後半のクリフォード・ブラウンは自動車事故で亡くなったので、このLPが伝説のトランペッターの遺作の一つとなった次第です。 そのLPで人気の高い”You’d Be So Nice To Come Home To(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ)”をヘレン・メリルはハスキーな声で情感たっぷりに歌い上げています。 この曲はCole Porter (コール・ポーター)の1942年の作詞作曲で1943年のスウィングジャズバンドをテーマにしたミュージカル映画「Something to Shout About」のために書かれたものだそうで、映画ではトミー&ジミー・ドーシー物語にも出演したJanet Blair(ジャネット・ブレア)とDon Ameche(ドン・アメチー)が歌いました。
ところで、”You’d Be So Nice to Come Home To(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ)”とはどういう意味なのでしょう。 普通に辞書をひくと、”you would be nice”だと可能性の低い推定で、「たぶん~であろうに」という意味になるでしょう。 そして”nice”はそのまま「優しい」とか「素晴らしい」の意味です。 come home to”で「しみじみと感じられる」などと胸にグッとくる感じを表すこともあるそうですが、”to come home to”は「家に帰って来て、家に帰って来ることは」でしょう。 日本語の副題として「あなたが帰ってくれれば嬉しいわ」となっているものの、文末の”to“があるがために、主語と目的語が転倒しているので、書き換えると「It would be so nice to come home to you.」となり、「あなたのもとに帰って来るとは素晴らしい」、つまり「貴方のいる家に帰ることは素晴らしい=あなたのところへ帰れたら素敵。」が正解だとか。 分かります?
「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」はヘレン・メリルの他にもFrank Sinatra、Dinah Shore(ダイナ・ショア)やJulie Londonと(ジュリー・ロンドン)など主だった女性ジャズ・ヴォーカリストをはじめ、Frank Sinatra(フランク・シナトラ)やBobby Darinなどと多くの歌手に歌われ、そしてArt Pepper(アート・ペッパー)やPaul Chambers(ポール・シャンバース)、又André Previn(アンドレ・プレビン)がRed Mitchellと Frankie Cappとのトリオで1958年に録音したアルバム「Trio Jazz: King Size(キング・サイズ)」に収録するなど多くのジャズメンに演奏されてきました。 私はテナーサックス奏者のGene Ammons(ジーン・アモンズ)やトランンペッット奏者のChet Baker(チェット・ベイカー)のバージョンが好きですが、ジャズギターならJim Hall(ジム・ホール)がConceirto de Aranjuez (アランフェス協奏曲)と共に名盤アルバム「Concierto」に収録していますし、新しくはボサノヴァ・ジャズ風のKenny Rankin(ケニー・ランキン)が歌っているそうでProfessional Dreamerで試聴出来ます。 ”I Am Woman”で知られる70年代の人気歌手のHelen Reddy(ヘレン・レディ)が1973年に歌ったPeaceful(ピースフル)もケニー・ランキンの代表曲だそうです。
Helen Merrill with Clifford Brown
ページトップの画像は1956年に亡くなったジャズ・トランペッターのクリフォード・ブラウンに捧げた試聴できるアルバム「ブラウニー~クリフォード・ブラウンに捧げる」です。 オリジナルは1994年Verveリリースだとか。 I Remember CliffordやBrownieの他、Born to Be BlueやI’ll Remember Aprilなど13曲収録のヘレン・メリルのアルバム「Brownie – A Homage to Clifford Brown(ブラウニー~クリフォード・ブラウンに捧げる)」です。
1954年がオリジナル盤の1990年発売のCD
helen merrill CD
Clifford Brown (trumpet) Danny Banks (baritone sax) Jimmy Jones (piano) Barry Galbraith (guitar) Milt Hinton (bass) Osie Johnson (drums) Quincy Jones (arrange, conduct)
私がYou’d Be So Nice To Come Home Toを購入した1989年盤アルバム「Helen Merrill with Clifford Brown」には一番人気のWhat’s Newも収録されています。
1954年日本リリースLPジャケット仕様の2005年最新盤アルバム「ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン」
ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン(でかジャケ)
1.Don’t Explain(ドント・エクスプレイン)
2.You’d Be So Nice to Come Home To(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ)
3.What’s New?(ホワッツ・ニュー)
4.Falling in Love With Love(恋に恋して)
5.Yesterdays(イエスタデイズ)
6.Born to Be Blue(ボーン・トゥ・ビー・ブルー)
7.’S Wonderful(何て素晴らしいの)
※Nina Simone、Billie Holiday、June Christy(ジューン・クリスティ)、Dinah Washington、Carmen McRae(カーメン・マクレエ)といった女性ジャズ歌手のバージョンでお馴染みのDon’t Explain(ドント・エクスプレイン)、”Hush now, don’t explain Just say you’ll remain…”と歌われる歌詞はDon’t Explain – LYRICSFREAK
1954年のHelen Merrill with Clifford Brownに加えてヘレン・メリルの代表曲を収録したベスト盤
ユード・ビー・ソー・ナイス 〜ベスト・オブ・ヘレン・メリル
Ennio Morricone with Helen Merrill (1961)
ヘレン・メリルの Nun E PeccatoやNessuno Al Mondoなど5曲を収録して映画音楽の巨匠とも呼ばれるエンニオ・モリコーネが 曲を提供したMiranda Martino(ミランダ・マルティーノ)やNico Fidenco(ニコ・フィデンコ)等とのコラボ作品を集めた「Early Works and Collaborations」(試聴はAmazon.co.jp (MP3 Download) – ASIN: B005L4S3WW)に収録されています。
Helen Merrill – S’E’ Fatto Tardi – YouTube
1989年のこと、60歳になろうとするヘレン・メリルはStan Getz(スタン・ゲッツ)とスイングしたアルバムを吹き込みました。 Duke Ellington(デューク・エリントン)のIt Don’t Mean a Thing、Baby、Ain’t I Good to You、Jacques Brel(ジャック・ブレル)のNe me quitte pas (If You Go Away)などのジャズのスタンダードが収録されています。 ♪ 試聴はJust Friends – Record City
Just Friends
♪ Helen Merrill – Baby Ain´t I Good To You (Women The Best Jazz Vocals, Jazz Divas)
Jelena Ana Milcetic a.k.a. Helen Merrill
ヨーロッパ(東欧)でのヘレン・メリルは本名のJelena Ana Milceticの名で1999年の半年程に新しい試みをしています。 従来のジャズに加えポップスやフォーク、そしてヘレン・メリルのルーツであるクロアチアの伝統音楽を取り入れ、アメリカと故郷の東欧の音楽を融合したヘレン・メリル曰く「ミニ自伝」ともいうアルバムを製作しています。 アルバムのトップの曲「Kirje」はクロアチアのオーボエやチターも入ったダンス音楽です。(ドラムはTerry Clarke)
Jelena Ana Milcetic Aka Helen Merrill
アメリカで2000年にリリースされたヘレン・メリルの祖国の東欧色のアルバム「Jelena Ana Milcetic Aka Helen Merrill」 はとても70歳とは思えない声です。
Gil Evans’ Orchestraと共演したHow’s The World Treating Youを収録した4枚組ボックスセットは「Complete Helen Merrill on Mercury (1954-1958)です。(ASIN: B01G471ADI)
試聴はhttps://www.allmusic.com/album/complete-helen-merrill-on-mercury-1954-1958-mw0000649641
Quand Tu Dors Pres De Moi – Paris for Lovers
ヘレン・メリルが歌う「Quand Tu Dors Pres De Moi」は1959年のサガンの4番目の小説でパリのブルジョワ社会での恋愛を描いた「Aimez-Vous Brahms?(ブラームスはお好き)」の1961年の映画化「Goodbye Again(さよならをもう一度)」で主演のYves Montand(イヴ・モンタン)が歌ったテーマ曲は”君が私のそばで眠る時”という意味で、ブラームスの交響曲第3番の第3楽章をアレンジしたものです。 以前聴けるサイトにリンクしていたのですが今はもうありませんので、パリをテーマにしたロマンチックなアルバム「Paris for Lovers 」で9番を試聴して下さい。
ヘレン・メリルの「Quand Tu Dors Pres De Moi」はヘレン・メリルのアルバムの「Blossom of Stars」やコンピレーション・アルバムの「Paris for Lovers」に収録されています 。
※私の手持ちの「さよならをもう一度」のEPレコードはPHILIPS FL_1026 「ブラームスはお好き」とロシア民謡風の「Ami Lointain(L’ami lointain/ はるかなる友)」が収録されています。
ヘレン・メリルは2006年5月29日(月曜日)〜6月17日(土曜日)に開催される「富士通スペシャル ジャズ・エリート2006」にヘレン・メリルとジェネット・サイデルをフィチャーする予定だそうです。
Helen Merrill in 60s 1960年にローマのナイト・クラブでイタリアのテレビ番組を収録 (アルバムは1999年リリース)
♪ Helen Merrill with parole – These foolish things (Parole E Musica) – YouTube
こんちは!
ヘレンさん、去年来てたすよね。
東京でやってたから行こうと思たんですけど、誰も付き合ってくれないのでヤめました・・あは!
んで、「ラジヲバリバリ」ってなんすか?
え?
愛媛じゃないすかぁ!
行けないよぉ・・・・。
でも、ついでにこっちにも来るかもしれないですね?
大好き、ヘレン!
今回来日の情報を聞いて、ブルーノート東京で突発的なライブをやらないかな~と思ったけれど・・残念なことにその予定はないようですね~~ち!!
ken-sannさん、今晩は! ヘレン・メリルはいくらハスキーといえども今でも若い時と遜色ないってスゴイです。 富士通スペシャル ジャズ・エリート20062006年5月29日(月曜日)~6月17日(土曜日)という予定がありますよ。 Tokyo TUC(岩本町)では6月10日と6月16日だそうです。 え~!ken-sannさん、バリバリ知らないんですか?・・・・私も知らない!あはは
anupam さんもヘレン・メリルがお好きなんですか! 本当に女性もしびれますよね。 富士通スペシャル ジャズ・エリート20062006年5月29日(月曜日)~6月17日(土曜日)がありますよ。ブルーノートではありませんが、Tokyo TUC(岩本町)では6月10日と6月16日だそうです。
ども!
情報Thanxです!
で、で、で、
20062006年?ずいぶん先だな~!
がはは~!
うんもう~、ken-sannさんったら!つっこまないでちょうだい。 でもどうして私は”ken-sannの時ばかり”ミスをするのでしょうか。・・・ん?いつもか!
こんにちは♪
koukinobaabaさんのblogをみると、いつも新たな発見があり、、
興味津々でございます♪
ヘレン、かっこいいですね〜!!!
chandelierさん、大人の女性って感じですね。 私自身も新発見ばかりで、一人で感心しながら書いています。「へー!、ほぅー!」
>文末の”to”があるがために、主語と目的語が
>転倒しているので、書き換えると「It would be
>so nice to come home to you.」となり…
の件り、この本:の著者のかたが昔いちどなにかのついでに言及しておられましたが、食い下がらないまま疑問をため込んで18年経ってしまい、ふと気になって検索したところ貴サイトに辿り着きました。
youを文末toの目的語の位置に繰り下げ、アタマにItを加えるのですね。すると「帰る」のは「私」になるわけで、「帰ってくれればうれしいわ」と訳した人はtoを無視したことになるのですね。
少しわかりかけてきたような、一知半解(半知半解とどっちがほんとだ?)なような…..
「私」を一切書かなくても「帰る」の主語として果たして想定できるんでしょうか? それほどクイズじみた込み入った英文を歌のタイトルにするのってアリなんでしょうか…
ともかく好きな歌なので、CDを書庫から発掘して聴いてみます。
nzzknさん、「主語と目的語が転倒だから・・・」なんて聞いても他の文例で応用できるかどうかは怪しいものです。数学でいうと方程式のようで私の頭には入りません。やはり、英語は”慣れ”が一番です。
詩もそうですが、歌の歌詞やタイトルは短い言葉で複雑な感情を表さねばならないのでよくよく理解していなければ読みとることは出来ませんね。
koukinobaabaさん、ちょっとうけました。
そういうことじゃなくて、気になっちゃうと気になっちゃうということでしょう。結局誰も理解できない文章だって何語にだってあるでしょうに。
そんなことより、来まっせ!ブルーノート東京!
自分でも笑っています。いつもトンチンカンなので。
歌っていた私の母は80歳頃にはオクターブが出なくなりましたが、さすがヘレンメリル、すごい!
ブルーノートは3月ですね。
http://www.bluenote.co.jp/jp/artist/helen-merrill/