Chris Connor: The Best of The Best
♪ Chris Connor – Lullaby of Birdland (1963) – YouTube
Chris Connor (1927 – 2009)
クリス・コナーはカンザス出身の白人ジャズ歌手で、Stan Kenton(スタン・ケントン)楽団のケントン・ガールの一人として有名になりました。 日本で大人気の白人ハスキーヴォイスの女性歌手といえばポップス寄りのDoris Day(ドリス・デイ)やPeggy Lee(ペギー・リー)やJulie London(ジュリー・ロンドン)、そしてジャズのHelen Merrill(ヘレン・メリル)がいます。 クリス・コナーはヘレン・メリルほど色っぽくはないですが、繊細で爽やかで癒しさえ感じさせ、特に低音が魅力のジャズヴォーカリストです。 1950年代にはビッグバンド出身のハスキーボイス歌手のHelen O’Connell(ヘレン・オコーネル)やケントン・ガールズのJune Christy(ジューン・クリスティ)とAnita O’Day(アニタ・オデイ)などと共にクールジャズを支えた一人として並び称されました。 とはいえ実際にはビッグバンドの先輩のジューン・クリスティやアニタ・オデイとは一線を画する立場にあり、後年バンド専属からクラブ歌手に転向してからは制約から解放されてリラックスし本来の持ち味が出せたと言われます。
楽器のクラリネットを学んだクリス・コナーでしたが、Stan Kenton(スタン・ケントン)楽団でアニタ・オデイやジューン・クリスティのように歌うことが夢で、プロになる前にカンザスのトロンボーン奏者であるBob Brookmeyer(ボブ・ブルックマイヤー)がリーダだったスタン・ケントン・スタイルのキャンパス・バンドで歌っていたそうです。 1949年か1950年頃、ニューヨークで歌っていたクリス・コナーのもとにその当時のケントン・ガールだった憧れのジューン・クリスティから連絡があり、低い音域のハスキーな声を持つクリス・コナーは楽団に合うからと推薦したのだそうです。 1952年から1953年のケントン時代に録音したJoe Greene(ジョー・グリーン)のバラードで”All About Ronnie”という曲により国内での知名度が上がりました。 スタン・ケントンから貴重な音楽指導を受けたものの、過酷な地方巡業公演がクリス・コナーのソロ活動への転機となりました。 在籍期間が短かったとはいえ、作曲を手掛けるスタン・ケントンがクリス・コナーにオリジナル曲を与えたのかどうかは不明です。 あるとすればどんな曲なのでしょうか。
バードランドの子守唄
1953年にクリス・コナーはBethlehem(ベツレヘム・レコード)と契約して” Lullabies of Birdland”(カタログ番号PAP-23003)を吹き込みました。 スタン・ケントン楽団でのメンバーだったJ.J.Johnson(JJ ジョンソン) & Kai Winding(カイ・ウィンディング)のトロンボーンにサックスのHerbie Mann(ハービー・マン)といった蒼々たるメンバーで録音したこの” Lullabies of Birdland”は大好評を博したそうです。 ベツレヘムにはPaula Castle(ポーラ・キャッスル)やHelen Carr(ヘレン・カー)も在籍していました。 1956年からはAtlantic Records(アトランチック)と契約したクリス・コナーは1950年代から1960年代にJohn Lewis(ジョン・ルイス)、Milt Hinton(ミルト・ヒントン)、Clark Terry(クラーク・テリー)、Oscar Pettiford(オスカー・ぺティフォード)、Phil Woods(フィル・ウッズ)、Kenny Burrell(ケニー・バレル)や、2006年予定の日本公演前に亡くなったのでTour Shirts(ツアー・シャツ)が人気のカナダ出身のトランペッターであるMaynard Ferguson(メイナード・ファーガソン)の楽団などと録音しているそうです。 1960年代に若者文化のロックンロールの台頭により多くのジャズ歌手は低迷期を迎えましたが、クリス・コナーは日本公演を含むツアーや色々なレーベルでの録音などで1970年代以降のジャズ復興期までを乗り切りました。 1990年代にはピアニストのHank Jones(ハンク・ジョーンズ)のトリオと”As Time Goes By”などを収録したアルバム「As Time Goes By」をリリースしています。 2003年、クリス・コナーが76歳の時には日本のキングレコードから「Lullabies of Birdland(バードランドの子守唄)」をリリースしています。
映画界でもいえることですが、日本の音楽界では日本だけでヒットしたり人気となるアーティストや歌がたくさんあります。 共に白人ジャズ歌手で美人でハスキーボイスのHelen Merrill(ヘレン・メリル)が歌うYou’d Be So Nice To Come Home To(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ)と同様にクリス・コナーが歌う「バードランドの子守唄」は日本では人気が高いのです。 Sarah Vaughan(サラ・ヴォーン)のような黒人ジャズ歌手を除けば最も素晴らしいバージョンといえるでしょう。
Sings Lullabies of Birdland
ページトップの画像はクリス・コナーのアルバムで「Sings Lullabies of Birdland」です。 アルバムタイトル曲となっているLullaby of Birdland(バードランドの子守唄)はもちろん、星影のステラやグッドバイなどを収録しています。 オリジナルは1953年の録音で、ベツレヘム・レコードからリリースした「The Rich Sound of Chris Connor」など3枚の30cmLPアルバムの中では「Lullabies of Birdland」は一番最初の作品だそうです。日本国内盤でも同じ「Sings Lullabies of Birdland」というタイトルのアルバムが1993年盤、1999年盤、2000年盤など発売されている他、「バードランドの子守唄」というCDタイトルで1999年盤や2001年盤などがあり、「バードランドの子守唄+2(」K2HD/紙ジャケット仕様)としては2007年盤がリリースされています。 日本では特に人気のミュージシャンだとか日本だけでヒットした曲がありますが、クリス・コナーの「バードランドの子守唄」もその例のようで、クリス・コナーの本国のアメリカをはじめ海外で見つかる「バードランドの子守唄」はエラ・フィッツジェラルドのバージョンが殆どですが、珍しいのはBlossom Dearie(ブロッサム・ディアリー)がコーラスグループの「The Blue Stars(ブルー・スターズ)」時代にフランス語で歌ってヒットしています。
Lullaby of Birdland
クリス・コナーの代表曲となった”Lullaby of Birdland(バードランドの子守唄)”という曲は盲目の白人ジャズピアニストのGeorge Shearing(ジョージ・シアリング)が1952年にジャズ・クラブ「バードランド」をテーマに作曲したもので、歌詞はスタン・ケントン楽団のアレンジャーを引き受けていたことがあるGeorge David Weiss(ジョージ・デヴィッド・ワイス)です。 Walter Donaldson(ウォルター・ドナルドソン)が1928年に作曲した”Love Me, or Leave Me“という曲がありますがコードが同じなのだそうです。 ジョージ・シアリングが作曲した当時に、男女混成コーラス・グループのRay Charles Singers(レイ・チャールズ・シンガーズ)がジョージ・シアリング楽団で歌いました。 現在は廃盤ですがジョージ・シアリング名義のアルバム「Cool Canaries」には1952年からの2年間をジョージ・シアリングの女性専属歌手として公演していたTeddi King(テディ・キング)とBilly Eckstine(ビリー・エクスタイン)やレイ・チャールズ・シンガースの「バードランドの子守唄」など1951年から1954年の録音を収録しています。 新しいところではレバノン系のTiffany(ティファニー)がアルバム「My Favorite Things(マイ・フェイヴァリット・シングス)」で2010年に亡くなったHank Jones(ハンク・ジョーンズ)のピアノをバックに歌っています。
“Lullaby of Birdland, that’s what I, Always hear, when you sigh,….”と歌われるLullaby of Birdland(バードランドの子守唄)の歌詞はLullaby of Birdland – Lyrics Playground
※ この”バードランドの子守唄”がアレンジされてストリップのBGMになっているなんて! Sam TaylorのReal Goneならわかるけど。
Birdland
「バードランド」とは1949年にマンハッタンの52番街に開店した伝説的ジャズクラブです。 ジャズのアルトサックス奏者でビバップの創始者ともいわれるCharlie “Bird” Parker((チャーリー・バード・パーカー))がクラブの看板だったことからパーカーのニックネームである”Bird”を冠したそうですが、Pee Wee Marquetteという名物司会者がいたことでも有名です。 当時のジャズミュージシャンたちがセッションを行ったり録音したりした人気のスポットでしたが一時1965年に閉店しています。 有名なレコーディングではArt Blakeyが1954年に録音したA Night at BirdlandやJohn ColtraneのLive at Birdlandなどがあります。
クリス・コナーの他にも1954年にElla Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)など女性ボーカルのバージョンもありますが、演奏ではCount Basie(カウント・ベイシー)やDuke Ellington(デューク・エリントン)といった大物ジャズミュージシャンの他、Dexter Gordon(デクスター・ゴードン) & Lionel Hampton(ライオネル・ハンプトン)が「Vibrations」というアルバムで共演しています。 イタリアのMina(ミーナ)が1969年に歌うなどと世界中で人気のスタンダードナンバーとなっています。
Chris Connor – Spring Is Here – YouTube
At the Village Gate
(Live At The Village Gate, NYC) /
国内盤は「ヴィレッジ ゲイトのクリス コナー」(ASIN: B003VPMEUU)は1963年にニューヨークのヴィレッジ ゲイトでのライヴ盤で、まさにクール!スタジオとは違ってのびのびと、しかし強烈にそしてドラマティックに歌いこんでいます。 演奏はクリス コナー・トリオでゲストのギタリストはMundell Loweだそうです。前半のOld Devil Moonのようなスウィングした曲と後半のBlack Coffeeからはブルージーなバラードと、昼夜2ステージ分が収録されています。 他の誰のバージョンよりもしっとりと聴かせる”Goodbye”が素晴らしい。
♪ 試聴は「Chris in Person/Chris Connor Sings George Gershwin – CDandLP.com」(ライブ盤)
Chris in Person/Chris Connor Sings George Gershwin
クリス・コナーが歌う”Lover, Come Back to Me”や”Angel Eyes”はアルバム「Chris in Person/Chris Connor Sings George Gershwin」に収録されています。 クリス・コナーの初ヒット曲の”All About Ronnie”をはじめ、George Gershwin(ジョージ・ガーシュウィン)の”Nice Work If You Can Get It(うまくやれよ)”、Erroll Garner(エロール・ガーナー)が作曲した”Misty”、Horace Silver(ホレス・シルヴァー)の”Senor Blues”、 Thelonious Monk(セロニアス・モンク)の演奏で有名な’Round Midnight、W. C. Handy(WC ハンディー)の”Summertime”などです。
※ 国内盤では2枚組みで全34曲を収録した「ガーシュイン・ソングブック(+4)」があります。
♪ 試聴はガーシュウィン・ソングブック(+4) – Diskunion.net
※ 1959年のVillage Vanguard LIVE(ヴィレッジ・ヴァンガード・ライヴ)盤は入手困難ですが”ミスティ”や”セニョール・ブルース”が収録されている「クリス・イン・パーソン(紙ジャケット仕様)もあります。
♪ 試聴はChris in person – CDandLP.com
As Time Goes By
クリス・コナーが歌う”As Time Goes By”は、September in the RainやLong Ago (And Far Away)と共に Hank Jones(ハンク・ジョーンズ)のトリオとのアルバム「As Time Goes By」に収録されています。
Lover Come Back To Me: Live At Sweet Basil
名曲の”Take the “A” Train”をデューク・エリントンとともに生み出したジャズピアニストで作曲家のBilly Strayhorn(ビリー・ストレイホーン)の作曲である”Lush Life”はクリス・コナーのアルバムの「Lover Come Back To Me: Live At Sweet Basil」に収録されています。
West Coast Wailers/Sings Ballads of the Sad Cafe
Witchcraftはありませんが、クリス・コナーのムードのある”Ballad of the Sad Cafe”は、ベツレヘムレコードでのトランペッターのConte Candoli(コンテ・カンドリ)のQuintetが録音した1957年のウエストコースト・バップ・セッション盤「West Coast Wailers」と「Powerhouse Trumpet」というヴィンテージLPを抱き合わせたCDに収録されています。
Chris Craft
Chinatown, My Chinatown、Moonlight in Vermont、Lover Manなど12曲が収録されているオリジナルはアトランティックレコードの1958年というアルバム「Chris Craft」の2008年盤がリリースされています。
This Is Chris
入手し難くなっていますがオリジナルは1955年というRhinoレーベルの輸入盤です。 Someone to Watch over Me、Trouble Is a Man、Thrill Is Gone、Ridin’ Highなどのスタンダード全10曲を収録していますが、国内盤では「ジス・イズ・クリス」のタイトルで見つかります。
My Funny Valentine
作詞家のGus Kahn(ガス・カーン)とEdward Eliscu((エドワード・エリスキュ)と作曲家のVincent Youmans(ヴィンセント・ユーマンス)との共同作品で1992年にニューヨークで録音された”Flying Down to Rio(フライング・ダウン・トゥ・リオ)”や”Summertime(サマータイム)”など13曲を収録した「My Funny Valentine(マイ・ファニー・バレンタイン)」というアルバムが日本国内盤としてに1993年にリリースされたそうですが現在は入手困難です。(1994年盤CDはASIN: B00005GI9W)
Sweet and Swinging
1946年のCharles Trenet(シャルル・トレネ)作曲でとLéon Chauliacの編曲によるお別れを歌うシャンソン、”Que reste-t-il re nos amours??(愛の名残り又は残されし恋には)”を1955年に作曲家のAlbert Beach(アルバート・A・ビーチ又はLee Wilson名義)が英語の詩をつけて人気となった”I Wish You Love”を1963年にクリス・コナーも歌ったそうです。
Goodbye, no use leading with our chins…
オリジナルが1978年のクリス・コナーのジャズ・アルバム「Sweet and Swinging」では、”I Wish You Love”をはじめ”Any Place I Hang My Hat is Home”、”Here’s That Rainy Day”、”When Sunny Gets Blue”、”Where Flamingos Fly”などのブルージーな曲をシンプルなジャズ・コンボをバックにしっとりと時には囁くように歌っていて、聴く人をナイトクラブのひと時に誘うアルバムです。 アルバムのタイトル通りに何曲かはスイングしている曲なのでメリハリがあって退屈はしません。 ”I Wish You Love”は「パリの週末」(Roulette盤)、又は「クリス・コナー/パリの週末 」(EMIミュージック・ジャパン)というCDにも収録されているそうですが現在も販売されているかは不明です。 Keely Smith(キーリィ・スミス)をはじめ、Gloria Lynne(グロリア・リン )、Felicia Sanders(フェリシア・サンダーズ)、そしてFrank Sinatra(フランク・シナトラ)もアルバム「It Might as Well Be Swing」で歌いましたが最近ではRachel Yamagata(レイチェル・ヤマガタ)も歌っています。
1940年代からカンサスシティ・ジャズの偉人と呼ばれたスモーキーな声のクリス・コナーは2009年8月に長年のパートナーだったマネージャーのLori Muscarelleを残してガンのため81歳で亡くなりました。
40年程前になりましょうか(定かではありません)、彼女が来日した際にテレビ出演した番組を観て、あんな声で、こんな歌い方もあるのか、と吃驚した記憶があります。
程なく、新宿でLP(アトランティック盤)を手に入れて、しばらく楽しんでいました。引越しやらなんやらで、その盤は行方知らずとなりましたが、10年程前に、たまたまCD盤と再会し、ときたま彼女の歌声を楽しんでいます。
ところで、いつだったか、なにかの雑誌の記事に書かれていた彼女の性癖が思い出されます。彼女が来日した時のことらしいのですが・・一行が銀ブラしていた際に、ヨイトマケのオバサンを見かけた彼女は、ホテルの部屋にオバサンを呼んでくれと駄々をこねて、通訳がたいへん困った、ということがあったそうです。
彼女はそっち方面のヒトだったんでしょうか?
tsubameさんがおっしゃるような事があったのなら奇行というべきでしょうが、話を面白おかしくするための場合もあり得ますから慎重に取り扱いたいものですね。
クリス・コナーが同性愛だったことは有名です。参考まで。
「 jazzman」さん、参考をありがとうございます。私が「奇行」と言ったのは同性愛そのもののことではなくそれに関連した不確かなエピソードのことです。