“10 inch LP” Duke Ellington featuring Louis Armstrong (1961) UA JET 4025 (UAT -4009)
The Americans in Paris
1951年にパリの街をオールセットで撮影したミュージカル映画の「An American In Paris(巴里のアメリカ人)」とは違って1961年の「パリの旅愁」は実際にパリで撮影されたそうです。 「巴里のアメリカ人」では画の勉強にアメリカからやって来た男が可愛いパリジェンヌと恋に落ちるストーリーでしたが、「パリの旅愁」ではパリに音楽にやってきたアメリカ人ジャズマンと観光にやって来たアメリカ女性との恋物語です。 アメリカ人同士の恋という点では1954年の「The Last Time I Saw Paris(雨の朝巴里に死す)」と似ています。 ともかく1950年代から1960年代には”パリでのアメリカ人”とか”ジャズ・ミュージシャン”がテーマとなった映画が人気でした。
Paris Blues (1961)
「パリの旅愁」は当時新人のMartin Ritt(マーティン・リット)が監督したパリ観光を兼ねたモノクロのロマンス映画で、当時のジャズが聴けます。 「パリの旅愁」はアメリカからパリにやって来たアメリカのジャズメンたちを描いたストーリーの原作は1963年に”Rescue in Denmark”を書いたHarold Flender(ハロルド・フレンダー)の1957年の同名小説だそうです。 フランスの歴史ある美しい都、差別のない自由の町、芸術に大いなる理解を示すパリの人々、パリに住むようになったミュージシャンはPaul Newman(ポール・ニューマン)が演じるラム・ボーエンとSidney Poitier(シドニー・ポワチエ)が演じるエディ・クックの白黒コンビです。 エディの方は本国アメリカでの人種差別から逃れてパリに来たとされていますが、差別あるいは麻薬はテーマとされておらず、ジャズとロマンスを取り上げています。 デューク・エリントン楽団と共に映画にトランペッターのWild Man Moore(ワイルド・マン・ムーア)役で出演したLouis Armstrong(ルイ・アームストロング)は既に1954年のThe Glenn Miller Story(グレン・ミラー物語)や1956年のJazz on a Summer’s Day(真夏の夜のジャズ)やHigh Society(上流社会)などで日本でも知られていました。 そのルイ・アームストロングは「パリの旅愁」では”Wild Man Blues”を演奏しながらラムとエディが演奏しているクラブに登場します。 Michel Duvigne(マイケル)役を演じたのはシャンソン歌手でもあるSerge Reggiani(セルジュ・レジアニ)だそうですが、このマイケルは映画の中ではラムが気にかけている麻薬禍のジプシーギタリストです。 麻薬中毒のギタリストといえば1950年代年に亡くなった美貌のジプシーギタリストのDjango Reinhardt(ジャンゴ・ラインハルト)のようですが、演じているのがフランス俳優のRoger Blin(ロジャー・ブラン)という情報もあるので、どちらだか確定できませんが両者とも戦時中はレジスタンスに関わっていたとか。 一方、ドラマーを演じているのは当時Brigitte Bardot(ブリジット・バルドー)の対抗馬として売り出されたAgnès Laurent(アグネス・ローラン)の1957年の「Mademoiselle Strip-tease(パリのお嬢さん)」にも出演したMr. Moustache(ムスタシュ)なんだそうですがこちらも情報なし。
Music or Woman: that is the question.
それぞれの事情でアメリカからジャズの勉強にパリにやって来たジャズ・トロンボーン奏者のラムとテナーサックス奏者のエディの二人は夜通し賑わっているセーヌ河沿いのジャズ・クラブで演奏して自由奔放な夜を満喫していました。 ラムの方は”Paris Blues(パリ・ブルース)”という協奏曲の作曲に取り組んできましたが、やっと完成した譜面をルイ・アームストロングが演じる知り合いのワイルド・マン・ムーアからレコード会社のRene Bernard(ベルナール)に見て貰うように頼んだのでした。
そんな折、休暇でパリ観光にやって来た若い女性、Joanne Woodward(ジョアン・ウッドワード)が演じるLillian Corning(リリアン・コーニング)とDiahann Carroll(ダイアン・キャロル)が演じる黒人娘のConnie Lampson(コニー・ランプソン)と二人の男たちが知り合うことになり、ラムとリリアン、エディとマニーという白と黒のカップルが出来上がったのでした。 ダイアン・キャロルはサガンの小説「ブラームスはお好き?」の映画化で1961年の「Goodbye Again(さようならをもう一度)」でナイトクラブ(Épi Club)の歌手として出演して映画のテーマ曲(Say No More, It’s GoodbyeとLove Is Just a Word)を歌っています。
秋のパリで楽しい12日間を過ごしたリリアンでしたが、未来のないラムとの恋愛に終止符を打つことを選び帰国することにしたのです。(予定は2週間でしたが失意のため切り上げ) ラムはベルナールに渡した譜面がボツになったことで絶望し、麻薬を憎むあまりに麻薬中毒のギタリストアに暴行を加えるなど荒れていましたが、トランペッターのワイルドン・ムーアの誘いに応じて故国アメリカへ帰ろうかとも思案していた時でした。 そうすればリリアンとも結婚できるからもと。 しかし結局はパリに残るという選択をしたラムとエディはそれぞれの恋人をパリの駅に見送ったのだった。 ただし二人の心の内は別の思い、ラムは音楽を、エディは結婚を選んで。
Paris Blues Trailer (1961) – YouTube
Paul Newman and Sidney Poitier in Paris Blues (1961) – YouTube
Sidney Poitier and Connie Lampson in Paris Blues – YouTube
Paris Blues DVD
Paris Blues DVD
左の画像はAmazon.co.jpで販売されているフォーマットがリージョン2のDVDです。(言語が英語で字幕がスペイン語)
Paris Blues VHS
日本では「Paris Blues」や「パリの旅愁」のVHSビデオがありますが現在は入手困難で、中古ビデオでも7000円代から3万円代で見つかります。
Martin Ritt
「パリの旅愁」を監督したマーティン・リットは1957年にシドニー・ポワチエが出演したフィルムノワールの「Edge of the City(暴力波止場)」で監督デビューして以来、数々の名作映画を監督してきました。 ちなみにハバナ出身の黒人俳優のポワチエはワニータ・ハーディと4人の子供を育てた15年間の結婚生活の後、カナダ出身でモデル系の女優で1967年の「Les Aventuriers(冒険者たち)」や1968年の「Tante Zita(若草の萌えるころ)」に出演したJoanna Shimkus(ジョアンナ・シムカス)と1969年の「The Lost Man(失われた男)」で共演して再婚しました。 シムカスはポワチエと二人の娘を持ち94歳で2022年に逝去したポワチエに添い遂げました。 ちなみに私が観たポワチエの映画では1955年の「暴力教室」、1958年の「手錠のまゝの脱獄」、1967年の「招かれざる客」、1997年の「ジャッカル」でした。
ウィリアム・フォークナー(William Faulkner)の1940年の小説「The Hamlet(村)」を映画化した1958年の南部もの映画のThe Long, Hot Summer(長く熱い夜)ではSammy Cahn(サミー・カーン)と映画音楽を担当したAlex North(アレックス・ノース)が作ったテーマ曲がカントリー歌手のJimmie Rodgers(ジミー・ロジャース)の歌でヒットしました。
マーティン・リット監督の作品にはSophia Loren(ソフィア・ローレン)とAnthony Quinn(アンソニー・クイン)が出演したThe Black Orchid(黒い蘭)、1959年にはユル・ブリンナーが主演したThe Sound and the Fury(悶え)、1960年にJeanne Moreau(ジャンヌ・モロー)やSilvana Mangano(シルヴァーナ・マンガーノ)が出演したFive Branded Women(五人の札つき娘)、1965年の「The Spy Who Came in from the Cold(寒い国から帰ったスパイ)」などどれもこれも素晴らしい作品揃いですが、私が最後に見たのは1969年の「Stanley & Iris(アイリスへの手紙)」でした。
Paris Blues Soundtrack (1961)
ページトップの画像は私が持っているサウンドトラックの10吋盤LPで当時1000円で購入したUnited Artistsの10 inch LP(25センチ)盤のユナイテッド映画「パリの旅愁」の”JET 4025″(日本ビクター株式会社発売)です。 12曲を収録したCDはカバー画像の上部にMGMのライオンマークが付いています。
ロマンス映画というよりはジャズ映画としての方が評判だった「パリの旅愁」ですが、サウンドトラックについてはあまり情報が見つかりません。 ジャズの巨匠と呼ばれるDuke Ellington(デューク・エリントン)が映画音楽を担当し、こちらもジャズの巨匠と呼ばれたルイ・アームストロングをフィーチャーしてデューク・エリントン楽団が演奏したサウンドトラックです。 このサントラにはエリントンの片腕であるピアニストのBilly Strayhorn(ビリー・ストレイホーン)が映画「Paris Blues」のために書き下ろした1960年の”Paris Bluesのテーマ”や、1931年にエリントン楽団のバーニー・ビガードとエリントンとの共作といわれる”Mood Indigo”、デューク・エリントンが作曲した大作の”Battle Royal”などが収録されています。(私の手持ちのレコードの当時の解説では、『デューク・エリントンはサッチモほど日本では知られていませんがアメリカでは偉大なるジャズ界の大御所云々』と記述されています)
全8曲の収録曲目
A面
1. Take the A Train A列車で行こう (1941年にエリントン楽団のバンド・テーマ曲)
2. Battle Royal バトル・ロイヤル (サッチモのトランペットソロをフィーチャーした4分半にも及ぶエリントンの大作)
3. Birdie Jungle バーディー・ジャングル (ムードたっぷりのテナーサックスとパーカッションがエキゾチックなアフロ・キューバン風の曲)
4. Mood Indigo ムード・インディゴ (サックスやクラリネットなどの木管楽器の調べもさることながらギターとベースのイントロからトロンボーンのソロに加えテナーとピアノ演奏が素晴らしい名曲)
B面
1. Nite 夜 (サックスなどの木管楽器が効果的に夜の情景を描写した曲)
2. Wild Man Moore ワイルド・マン・ムーア (サッチモのトランペットをフィーチャーしたアップテンポな曲)
3. Guiter Amour ギター・アムール (エリントンが作曲したスローなギターソロのイントロから情熱的なスパニッシュ・ギターの調べへと変化する曲)
4. Paris Blues パリ・ブルース (ビリー・ストレイホーンが作曲した大都会の人間の孤独を表現したブルース曲)
Louis Amstrong – Paris Blues – YouTube
Paris Blues: Original MGM Motion Picture Soundtrack [Enhanced CD]
1998年にボーナストラックとしてWhat’s Paris Blues?、Autumnal Suite、A Return Reservation、Paris Stairsを追加して12曲収録してCD化された輸入盤の「Paris Blues: Original MGM Motion Picture Soundtrack」が新品でも4000円代から7000円大で入手できますが、LP盤だとアメリカのAmazon.comで$15から $45くらいで見つかります。 ちなみにこのCDカバー画像がトップの1960年のオリジナルLP画像と違うのは”High Fidelity”の文字列位置です。
演奏者のルイ・アームストロング名義になっているCDもある「Paris Blues Original Soundtrack」ですが、ボーナストラックがさらにYou know something? とI wasn’t shoppingを追加して全14曲収録となっていますが、Autumnal SuiteとParis Stairs以外の4曲は映画のシーンのセリフです。
試聴はデジタルミュージックのParis Blues – Amazon.co.jp
♪「Paris Blues」のサウンドトラックから”Paris Blues”が聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for The Brother Lucy Show with Kurt Gottschalk – August 7, 2008
(Listen to this show: RealAudioをクリックしてクリップポジションを31:30に移動)
♪「Paris Blues」のサウンドトラックから”Guitar Amour”が聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for Moonshine Heather with Eva – February 1, 2004
(Listen to this show: RealAudioをクリックしてクリップポジションを1:17:30に移動)
Duke Ellington – Paris Blues (Soundtrack from the Motion Picture) [feat. Louis Armstrong]
上記のサントラと同じ曲目を収録したCDでカバー画像にポール・ニューンとシドニー・ポワチエの写真を使用したアルバムも2008年1月にMGM musicからリリースされiTunesで販売されています。(http://itunes.apple.com/jp/album/paris-blues-soundtrack-from/id285168763?i=285169026)
Mood Indigo
ムード・インディゴはデューク・エリントンが1931年に”Dreamy blues”として当時の団員でクラリネット奏者のBarney Bigard(バーニー・ビガード)とで共同で作曲したと伝われる曲です。 ”Minnie The Moocher”や”Caravan”の作詞者として知られるIrving Mills(アーヴィング・ミルズ)が後に詞を付けた美しい曲”Mood Indigo”はCab Calloway(キャブ・キャロウェイ)やCharles Mingus(チャールス・ミンガス)、ギタリストのKenny Burrell(ケニー・バレル)が「Ellington Is Forever, Vol. 1」で演奏していますが、元エリントン楽団メンバーのトランペッターであったTaft Jordan(タフト・ジョーダン)率いるTaft Jordan Quintet(クィンテット)がエリントンナンバーを収録したアルバム「Mood Indigo」をリリースしています。 ボーカルでは映画のなかでも歌ったLouis Armstrong(サッチモことルイ・アームストロング)はもちろんのこと、”The Lonesome Road”などのヒットで有名な初代クルーナーのGene Austin(ジーン・オースティン)や、女性ボーカリストではElla Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)、Dinah Washington(ダイナ・ワシントン)やNina Simone(ニーナ・シモン)の他にRosemary Clooney(ローズマリー・クルーニー)やDoris Day(ドリス・デイ)なども吹き込んでいます。 Nat King Cole(ナット・キング・コール)はアルバム「Big Band Cole」に収録しています。 なんとイタリアのカンツォーネ歌手のMina(ミーナ)までも歌っているのです。
「You ain’t been blue no, no, no, You ain’t been blue, till you’ve had that mood indigo … 」と歌われる”ムード・インディゴ”歌詞はMood Indigo Lyrics – ARTANIS
Duke Ellington – Mood Indigo (1930)- YouTube
☆アーヴィング・ミルズについてや、デューク・エリントンが初めて映画のサウンドトラックを担当した”Anatomy of a Murder”も試聴出来るAudio-Visual Trivia内のデューク・エリントン Duke Ellington
デューク・エリントンとコラボレーション・アルバムを録音したローズマリー・クルーニー Rosemary Clooney
Happily-married couple: Paul Newman & Joanne Woodward in New Kind of Love (1963)
1961年に同じくエディという主人公を「TheHustler(ハスラー)」で演じアカデミーの主演男優賞を受賞したポール・ニューマンは「パリの旅愁」の翌年1962年には日本未公開でしたが「Sweet Bird of Youth(乾いた太陽)」にも出演しジョアン・ウッドワードと舞台で共演したことから知り合い、最初の妻と離婚して1958年に結婚して以来、2008年に亡くなるまでの50年間をおしどり夫婦と呼ばれた二人でした。 ジョアン・ウッドワードをステーキに喩えたポール・ニューマンとジョアン・ウッドワードが揃って出演したマーティン・リット監督の作品としては1958年の「長く熱い夜」と「パリの旅愁」の他、1960年の「From the Terrace(孤独な関係)」、1963年の「A New Kind of Love(パリが恋するとき)」、1969年のWinning(レーサー)」などでも共演したり、ポール・ニューマンが監督した1968年のRachel, Rachel(レーチェル レーチェル)などでも一緒に仕事をしていましたが、二人が最後に共演した1990年のMr and Mrs Bridge(ミスター&ミセス・ブリッジ)も夫婦役だったというから驚きです。 ジョアン・ウッドワードは1959年にウィリアム・フォークナー原作の「The Sound and the Fury(悶え)」でYul Brynner(ユル・ブリンナー)と1960年には「The Fugitive Kind(蛇皮の服を着た男)」でMarlon Brando(マーロン・ブランド)など大物と共演しましたが1963年には「The Stripper(七月の女)」で若手のRichard Beymer(リチャード・ベイマー)と共演しました。 なんと言ってもジョアン・ウッドワードの演技力が光ったのは3人のキャラクターを演じた1957年の「イブの三つの顔」でしょう。 幼少期の恐怖体験から違う3人の人格が現れる興味深い実話を映画化したものですが日本では未公開でした。(アカデミーとゴールデングローブの主演女優賞を獲得)
Newman & Woodward in New Kind of Love – YouTube
People: Paul Newman (People Tribute the Life of a Movie Legend)
ポール・ニューマンが2008年に83歳で逝去した時点ではアメリカではこぞって追悼報道や番組などがあったそうです。 Editors of People Magazineから出たこの書籍も死後すぐに発売になったハードカバー本でポール・ニューマンのファンには垂涎の写真がたくさん載っているそうです。 ISBN-10: 160320069X(ただし英語)
エリントンの映画音楽といえば、このParis Blues と An Anatomy of Murder (邦題失念。ジェームススチュアート主演でした)ですが、どちらも素晴しいです。(エリントンには愚作などないので当然ですが、、、。)未発表曲の入ったCDがあるとは知りませんでした。なお、この映画半年くらい前にNHKのBSでやっていました。
Anonymousさま、「パリの旅愁」がNHKのBSで放映されていたなんて素晴らしい情報をありがとうございます。てっきり若い方々には知られていないと思い込んでいました。
ソウル・バスのタイトルが素晴らしい”Anatomy of a Murder”の邦題は「或る殺人」で、Audio-Visual Trivia内のデューク・エリントンの記事に書いてあります。
追加のコメントを頂くまでもなく、ヒロヤスさんのお名前をコメント欄に入れておきます。