アンディ・ベイ Andy Bey

Ballads, Blues & Bey
Ballads, Blues & Bey - Andy Bey
♪ Andy Bey – I Let a Song Go out of My Heart

Andy Bey: The Least Known of Great Jazz Singers
私が初めてアンディ・ベイ(アンディー・ベイ)を聴いた時は”一瞬”バリトンのジャズ歌手のBilly Eckstine(ビリー・エクスタイン)か?と思ってしまいましたが、又他の曲では別人かと思えるほど音色が一定ではありません。 なぜなら、ジャズ・ヴォーカリストのアンディ・ベイは音域が広くて”4オクターブ”も出せるのです。
アンディ・ベイは、ジャズの世界では余り取り上げられていない知られざる歌手の一人といわれますが、歌詞を深く解釈して堂々と歌いあげるその表現力の豊かさは天才的といえます。 声量はたっぷりでバス・バリトン(重低音)が魅力のアンディ・ベイのレパートリーはジャズのスタンダードからハードバップまでと幅広く、本来ならばもっと評価されて良いはずのヴォーカリストですが、少ないながらも熱烈なファン層を持っているようです。 そして近年の新アルバムリリースにより全米でもっとも注目を集めるジャズ歌手などともいわれ、クラブ・シーンの若者にも人気だそうです。
※バスよりやや高いのがバリトン、バスバリトンとは声域と声質がバスとバリトンのおよそ中間もしくは低めのバリトンの歌手らしいですが、アンディ・ベイはむしろ完全バス?

Andy Bey
1939年生まれのアンディ・ベイは子供の頃からジャズを歌いだし、1940年代後半にはなんと8歳にして聴衆の前で歌ったほどの天才児だったそうです。 しかもその内の何回かは伴奏があの偉大なるテナーサックス奏者のHank Mobley(ハンク・モブレー)だったとか。
初吹き込みはアンディが13歳の時の1952年で、「Mama’s Little Boy’s Got the Blues」というソロ・アルバムだったのだそうですが当然現在はどこにも見つかりません。
アンディ・ベイは9人兄弟姉妹の末っ子で男の子は2人でした。 学業半ばにして、アンディと二人の姉のSalome(サロメ)とGeraldine(ジュラルディン)はヨーロッパに行き、Andy and the Bey SistersとしてパリのBlue Note(ブルーノート)に1年ちょっと籍を置いていたそうです。
他の説によればAndy & the Bey Sistersを結成したのは1956年で1961年にRCA Victorで、1965年にPrestigeで計3枚のアルバムをリリースしたそうです。
※ベイ・トリオは1967年に解散してしまいましたが70年代に姉のSalome Bey(サロメ・ベイ)もジャズ・ピアニストのHorace Silver(ホレス・シルヴァー)の1970年録音のブルーノートLPレコード「Total Responce / HORACE SILVER!」などに”Won’t You Open Up Your Senses”や”I’ve Had A Little Talk”を歌ったアンディ・ベイと共に参加しています。
※ホレス・シルヴァーはハードバップのピアニストでしたが、そのユーモアさえ感じさせる演奏は初期には理解されなかったといわれます。 Stan Getz(スタン・ゲッツ)と初吹き込みの後、自己の楽団を結成し、Art Blakey & the Jazz Messengersの前身であるホレス・シルヴァーのジャズメッセンジャーズにArt Blakey(アート・ブレイキー)を迎え入れたそうです。
Andy Bey with Horace Silver – I Had a Little Talk – YouTube
Andy Bey and The Bey Sisters – Feeling Good – YouTube

その後のアンディ・ベイは、60年代と70年代にドラマーのMax Roach(マックス・ローチ)やアルトサックス奏者のGary Bartz(ゲイリー・バーツ)など色々な楽団の歌手を務めました。 70年代からはピアニストのホレス・シルヴァーの専属歌手としてツアーにも参加し、宗教的かつ哲学的なスピリチュアル的なアルバム「Total Responce」に参加しています。 このアルバムは商業的には成功とはいえませんでしたが、シルバーとのコンビは90年代までと長く続き、初来日が1962年のホレス・シルヴァー・クインテットと一緒に来日もしています。

※ヨーロッパ系アフリカ人の親を持つノーウォーク出身のホレス・シルヴァーは1956年までアート・ブレイキーと組んでいましたが、宗教問題で決裂しその後、Donald Byrd(ドナルド・バード)、Hank Mobley(ハンク・モブレー)、Doug Watkins(ダグ・ワトキンス)を率き抜いて自分のバンドを設立しハードバップを極めます。

アンディ・ベイがピアニストとしての隠れた面を覗かせた弾き語りのアルバム「Ballads, Blues and Bey」は1996年にリリースされて大成功し、その後は1998年のShades of Beyや2001年のTuesdays in Chinatownはかなり取り上げられるようになりました。 アルバム「Pink Moon」を残して若くして亡くなった伝説の英国フォーク・シンガーのNick Drake(ニックドレイク)をカバー、「Tuesdays in Chinatown」ではブラジルのMilton Nascimento(ミルトン・ナシメント)やロックスターのSting(スティング)などの曲をカバーしてジャズ以外の音楽も幅広く探求しています。 そして2004年リリースの「American Song」はDuke Ellington(デューク・エリントン)やLeonard Bernstein(レナード・バーンスタイン)などのアメリカの偉大なる作曲家の作品もカバーしています。
※Chinatownといえば香港でJudy Garland(ジュディ・ガーランド)が見出してアメリカに呼んだオーストラリアのミュージシャンのPete Allen(ピーター・アレン)はガーランドの娘のLiza Minnelli(ライザ・ミネリ)の夫君でもありました。 Peggy Lee(ペギー・リー)の”I go to Rio”やフランク・シナトラの”You And Me”を作曲したピーター・アレンの楽団の演奏を収録した「Chinatown My Chinatown」というアルバムがあります。
以上、”Chinatown”といってもロマン・ポランスキー監督の映画「チャイナタウン」とは全く無関係です。

Ain’t Necessarily So by Andy Bey
♪ アンディ・ベイのAin’t Necessarily So、All The Things You Are、Brother、Can You Spare a Dime?、Someone to Watch Over Meが聴けるMySpace.com – Andy Bey
2007年最新盤のアンディ・ベイのアルバムは”Ain’t Necessarily So“がアルバムタイトル曲となっています。
♪ アルバムの試聴はAin’t Necessarily So – Amazon.com

“Ballads Blues & Bey” by Andy Bey
ページトップの画像は1996年にリリースされたアンディ・ベイがピアニストとしても素晴らしいことが分かるアルバム「Ballads, Blues & Bey” Andy Bey」では弾き語りでYou’d Be So Nice to Come Home To、In a Sentimental Mood、Willow Weep for MeそしてEmbraceable Youなどを聞かせます。 私の好きなスタンダード曲を収録したアルバムは「Ballads, Blues & Bey

Andy Bey & the Bey Sisters
アンディ・ベイとベイシスターズはオリジナルが1964年のNow! Hear! と1965年のRound Midnightとか、1959年の録音ともいわれますがともかくこのCDは2000年リリースです。アンディ・ベイとベイシスターズはアンディ・ベイと二人の姉妹とのトリオ・グループでアンディ・ベイがピアノとヴォーカル、二人の姉妹もヴォーカルを担当しています。 なんたって兄弟姉妹ですから息もピッタリで素晴らしいハーモニーで泣かせてくれます。 1964年の「Now! Hear!」ではギターがKenny Burrell(ケニー・バレル)、ベースがMilt Hinton(ミルト・ヒントン)でドラムがJo Jones(ジョー・ジョーンズ)などだそうです。 最近ではDee Dee Bridgewater(ディー・ディー・ブリッジウォーター)が歌っていますが、ベイトリオが歌うファンキージャズのホレス・シルバーの十八番「Sister Sadie」は試聴の4番
Andy Bey & the Bey SistersAndy Bey & the Bey Sisters
ListenAndy Bey & the Bey Sistersの1964年のアルバムNow! Hear!からBesame Muchoが聴けるwfmuラジオのプレイリスト Give The Drummer Some February 24, 2006(Hear the show in RealAudioをクリックしてクリップ・ポジション(再生バー)を40:03に移動)
同じく1965年のLove Medley: Love Is Just Around the Corner/I Love You/Love You Madlyが聴けるGive The Drummer Some July 6, 2001(Hear the show in RealAudioをクリックしてクリップ・ポジション(再生バー)を1:28:50に移動)

Andy & The Bey Sisters – “‘Bésame mucho” 1965 – YouTube
Andy & The Bey Sisters with Kenny Burrell – Feeling Good (‘Round Midnight) – YouTube

American Song
Matt Dennis作曲でEarl Karl Brent作詞したジャズ・ブルースの”Angel Eyes”は、50年代の後期に男性歌手ではJohnny Mathis(ジョニー・マティス)、Jimmy Scott(ジミー・スコット)、Chet Baker(チェット・ベイカー)、Frank Sinatra(フランク・シナトラ)など、女性ボーカリストではJune Christy(ジューン・クリスティ)やChris Connor(クリス・コナー)が歌い、トランペッターのKenny Dorham(ケニー・ドーハム)が唯一歌ったアルバム「Kenny Dorham Sings and Plays: This Is the Moment!」にも収録されている他、演奏ではしびれるテナーのGene Ammons(ジーン・アモンズ)、メローなギターのBarney Kessel(バーニー・ケッセル)や白人ジャズピアニストのDave Brubeck(デイヴ・ブルーベック)等のジャズミュージシャンのバージョンがあります。 アンディ・ベイの”Angel Eyes”が収録されているアルバムは有名なスタンダード曲のカバー集で2005年発売の「American Song」です。
American Song-Andy BeyAmerican Song – Amazon.co.jp
国内盤の「アメリカン・ソング」もあり。
偶然聴いていて見つけたのですがAudio-Visual Trivia内の「The Most Relaxing Jazz」シリーズの中で「The Most Relaxing Jazz Guitar Music in the Universe」というアルバムがありますが、その中にも”Angel Eyes”が収録されています。

Shades of Bey
自らゲイであると公言しているアンディ・ベイは「例えゲイでなくとも他のミュージシャンとちょっと違っていて時々孤立する。」とインタビューで述べています。 ブリティッシュ・フォークロックのNick Drake(ニック・ドレイク)とのコラボで人気の”River Man”が収録されているほか、3番のThelonious Monk(セロニアス・モンク)の”Straight No Chaser”や4番のBilly Strayhorn(ビリー・ストレイホーン)の”The Star-Crossed Lovers”をカバーした1998年のアルバム「Shades of Bey」のリリース後は「かなり一般に受け入れられて満足。」だそうです。
Shades of Bey-Andy BeyShades of Bey
※”Drume Negrita(Goodnight Black Little Girl)”はキューバの伝統的な子守唄(Afro-Cuban Lullaby)だそうです。
アンディ・ベイの”River Man”が聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for Irwin – January 12, 2005(riverで検索して右の1:50:52をクリック)

Experience and Judgment
アンディ・ベイの初のソロアルバムはオリジナルが1970年リリースの「Experience and Judgment」です。 アンディ・ベイが土星人になったCDジャケットが突飛ですが、宇宙からやって来た何やら哲学的な未確認UFO的アルバム「Experience and Judgment」のソウル調の”Celestial Blues”が素晴らしい!
Experience and Judgment-Andy BeyExperience and Judgment
♪ Andy Bey – Celestial Blues

Salome Bey
サロメ・ベイは17歳の時、有名なApollo Theatre(アポロ劇場)のタレント・コンテストで優勝しましたが父親の反対に会ってご褒美の1週間のアポロ劇場出演はかないませんでした。 サロメ・ベイが結成した弟のアンディ・ベイと組んだトリオ・グループ「Andy and the Bey Sisters」として地方のクラブに出演していましたが人気者となり北米やヨーロッパをツアーするに至り、ゴスペル界のアイドルだったSam Cooke(サム・クック)のお気に入りとなり共にライヴもしています。 1964年にカナダで舞台「Justine」デビューして女優として人気者となったサロメ・ベイは、70年代にJustineのニューヨーク版「Love Me, Love My Children」でトニー賞に次ぐ栄光のOBIE Award(Off-Broadway Theater Awards)の最優秀女優賞や1991年のToronto Arts Awardsも受賞しています。 1985年には”C.C. Rider(See See Rider)”の名曲を歌ったMa Rainey(マ・レイニー)の伝記ミュージカル「Madame Gertrude」などにも出演したそうです。 時には娘のTukuやSaidahと歌ったり、弟のアンディベイやホレスシルヴァーと吹き込んだり、テレビ出演やチャリティ・コンサートやジャズ・フェスティヴァルに出演してブルース(ブルーズ)の女帝と呼ばれたマ・レイニーのようなブルース歌手として今もなお活躍しています。 ちなみに2020年にデンゼル・ワシントンが製作に携わった人種差別を描いたドラマ「Ma Rainey’s Black Bottom(マ・レイニーのブラックボトム)」が製作されています。
サロメ・ベイ自身のアルバムとしては1970年の「Salome Bey」、1972年の「Songs from Dude」、「Jazz Canada Europe ’79」、1994年の「Christmas Blue」 、1997年の「I Like Your Company」などがあります。
☆「Hair(ヘアー)」で有名なGalt MacDermot(ガルト・マクダーモット)が作曲しGerome Ragni(ジェローム・ラグニ)が作詞を手掛けた1972年のロック・ミュージカル「Dude (The Highway Life) 」のサウンドトラック「Salome Bey Sings Songs from Dude」をリリースしたサロメ・ベイはこんな声です。
Salome Bey & The Relatives – Christmas Blue – YouTube

アンディ・ベイ Andy Bey」への5件のフィードバック

  1. 興味深いですねえ。残念ながらiTuneはないので、聴けなかったんですが、クマちゃんはよく知っていました。オハイオでよく歌っていたような気がするといってましたが、定かな記憶ではないようです。チャンスがあったらぜひ聴いてみますね。

  2. koukinobaaba より:

    lanovaさん、こちらの方も見て頂いて有難うございます。こちらのブログは聴いたり観たりが特徴なのでたいていの記事にはスピーカーアイコンとビデオアイコンが有りますのでぜひ視聴して下さい。
    そちらのリンク先では、iTuneの試聴とは違って殆どが全曲聴けますよ。アンディ・ベイは日本では無名ですがアメリカでは長い歌手生活ですからこちらよりは知られていることでしょう。(ケティがド演歌ならアンディは浪花節ってとこですかねえ)

  3. koukinobaabaさん、こんにちは。
     ご訪問いただきありがとう御座いました。トラックバックいただけなかったようで申し訳ありませんでした。スパム対策で禁止用語の設定がしてあるのですが、どうやら上手く機能していないのかもしれません。緩和してみますので又リトライしてみて下さい。
     アンディ ベイは本当に過小評価されている人ですね。来日もしているのに不思議な気がします。たった一度だけお会いすることがありましたが、とても誠実そうな人柄のようにうかがえました。ふだんのお声もとろけるような素敵なお声でした。ご紹介されている「アメリカン ソング」では北川 潔さんがベースで参加されているので少しは注目されたのではないかなと思います。
     他にご紹介されているアーティストも、スクリーミン ホーキンスやシドニィ ベシェなどありきたりの人でないところをとても好ましく拝見いたしました。
     また、ゆっくりと記事を拝見させていただきます。

  4. koukinobaaba より:

    Sonnyさん、私の方もスパム防止設定しているので時々コメントなどが表示されず、対応が遅くなっています。トラックバックは私のブログタイトルが英文字なせいかよく拒否されます。
    音楽も映画も知識は無いのですが興味深いと思われることを記事にしています。今後とも宜しくお願いします。

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