ビリー・ホリデイ Billie Holiday

Billie Holiday (1915 – 1959) during the Swing Era
偉大なる黒人女性のジャズヴォーカリストといえばElla Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)や、Sarah Vaughan(サラ・ヴォーン)、ビリー・ホリデイに影響を受けたというCarmen McRae(カーメン・マクレエ)などと素晴らしいアーティストはたくさんいますがブルース界では、ブルース(ブルーズ)の母と呼ばれたMa Rainey(マ・レイニー)や、ブルースの女帝と呼ばれたBessie Smith(ベッシー・スミス)の後に登場した伝説のブルース歌手は、The Lady (First Lady) of the bluesと呼ばれ、白いくちなしの花を髪飾りにしたビリー・ホリデイです。 なぜ貴婦人(大統領夫人)と呼ばれたかは当時の黒人ミュージシャンたちは大統領とか公爵とか伯爵とか男爵とかいう称号を自分の名前として名乗ったのです。 レスター・ヤングのPrez (President)をはじめ、 Duke Ellington, Count Basie, Baron Mingus, etc. そして、なぜ白いくちなしの花を身に付けるかというと、黒人アーティストのLester Young(レスター・ヤング)やCount Basie(カウント・ベイシー)の他、白人ミュージシャンのArtie Shaw(アーティ・ショー)などとも共演して差別の壁を越えたかに見えたのですが、舞台に立つまでは過酷な差別待遇に甘んじなければなりませんでした。 そしてステージの時が来ると白いくちなしの花を髪に飾ってただの黒人から人気歌手の”Lady Day”に変身するのでした。 実際は出番直前にカール用コテで左側の髪を焦がしてしまったので急遽一緒にいた歌手(Carmen McRae?)がクラブの花売り娘から買ってきたのだともいわれています。 いづれにせよそれ以来1940年代後期まではガーデニアを髪飾りにしていたことは間違いありません。
ジャズか?ブルースか? 一般にはジャズヴォーカリストとなっているビリー・ホリデイが純然たるブルース歌手かというと異論のあるところだと思いますが、12小節で1コーラスとかブルーノートといった楽典うんぬんは別にして苦悩や絶望感を表現しているブルージーなフィーリングから私はビリーはブルースを歌っていると思いました。 鈴を転がすようなとか、透き通った美しい声という形容は全く当てはまらず、初めて聴いた時は老婆かと思ったほどシワガレた声でしたが、私はすぐにこのビリー・ホリデイのハスキーな声の虜になったのです。 ビリー・ホリデイは派手な身振りは殆どありませんが、感情を込めて詩の一語一語を噛み締めるように歌い上げる歌唱法で、時には原曲と全く異なる独特な曲の解釈をもってブルースを命果てるまで歌い続けた歌手です。 同じ曲でもけして同じ唱法では歌わなかったビリー・ホリデイ、その晩年には殆どふりしぼるような声で咳きもひどくて聴いている方が辛いくらいでしたが、哀愁を感じさせるビリーのその声が1930年代から1950年代までに変化していった過程を含めて私はビリーの歌に酔いしれます。 人種差別、麻薬、売春、絶望、孤独などビリー・ホリデイが歌うブルースのいづれも私には経験のないことばかり、でも大好きなビリー・ホリデイがしんみりと情を込めて歌う歌を聴きながら泣かずにはおれません。 ビリー・ホリデイの壮絶な子供時代については1956年に出版された自伝の”Lady Sings the Blues”で述べられています。
※ちなみに「ビリー・ホリデイ」というステージネーム(芸名)の意味は1920年代からサイレント映画に出演していたという女優のBillie Drove(ビリー・ダヴ、ビリー・ドロウヴ)の”ビリー”と、ギタリストだったという父の苗字の”ホリデイ”を取って名付けたと言われています。 私は1930年代から1940年代にかけてTeddy Wilson(テディ・ウィルソン)のピアノ伴奏で歌うビリー・ホリデイが一番好きです。
Billie Holiday with Teddy Wilson – You Showed Me The Way (1938) YouTube

バルチモア出身のビリーは1933年に音楽プロデューサーのJohn H. Hammond(ジョン・ハモンド)に見出されるまで、1930年代の初め頃からニューヨークのハーレムのナイトクラブで日銭稼ぎに歌い始めたそうです。 ビリー・ホリデイはジョン・ハモンドのアレンジでBenny Goodman(ベニ―・グッドマン)やTeddy Wilson(テディ・ウィルソン)と1935年にレコーディングしました。 私が初めてビリー・ホリデイの曲として聴いたのがその時の録音で、1934年にHarry M. Woods(ハリー・M・ウッズ)が作曲した”What A Little Moonlight Can Do(月光のいたずら)”と、Richard A. Whiting(リチャード・A・ホワイティング)とRalph Rainger(ラルフ・レインガー)のコンビで作曲した”Miss Brown To You”です。 それ以降、ダンディなピアニストのテディ・ウィルソンとジャズ歌手のビリー・ホリデイのコンビは普通のポップスでさえジャズ風にアレンジしてジャズ史に残る名盤を残しています。 スイング(スウィング)時代の著名なミュージシャンと共演するヴォーカリストとして名を馳せるようになったビリー・ホリデイはこの後にハンサムなテナーサックス奏者のLester Young(レスター・ヤング)と出会って一緒に仕事をするようになります。
※大物音楽プロデューサーのジョン・ハモンドはCount Basie(カウント・ベイシー)やLionel Hampton(ライオネル・ハンプトン)などをスカウトして、カーネギーホールでブルースやスウィングジャズのンサートをプロデュースした人物といわれています。

Lester Young (1909 – 1959)
当時主流だったアドリブが効いたColeman Hawkins(コールマン・ホーキンス)の革新的でヘヴィーなテナーサックス演奏と違って、ミシシッピ出身のLester Young(レスター・ヤング)はCharlie Parker(チャーリー・パーカー)を思わせるそのリラックスした軽くてソフトなテナー・サウンドで人気となりました。 レスターはカウント・ベイシー楽団に参加してから名が知れるようになりましたが、カウント・ベイシーやビリー・ホリデイとのセッションではクラリネットも吹いているそうです。 ポークパイ・ハットがトレードマークだったお洒落なレスターはテナーの奏法も独特の持ち方をしたばかりでなく内輪だけに通じる言語(スラング)で話したという変わり者だそうです。(ダンスホールなどで楽団用のスペースが狭かったからバンドメンバーと接触しないようにサックスを横に構えたり時には上に持ち上げたりと首と指には厳しいスタイルで演奏したそうですが、なぜレスターだけが?) レスター・ヤングがアルコール中毒で49歳で亡くなった4ヶ月後、ビリーも44歳で亡くなったのでした。
※ビリー・ホリデイやMildred Bailey(ミルドレッド・ベイリー)に直接手ほどきを受けた歌手にニューヨークのナイトクラブで活躍したSylvia Syms(シルヴィア・シムス)というジャズ歌手がいるそうです。

Billie Holiday aka Lady Day
ビリー・ホリデイという名前は芸名ですが、1940年代初期にビリー・ホリデイは一緒に仕事をしていた頃にレスター・ヤングはビリーを”Lady Day(貴婦人)”と呼び、ビリーはPrez(大統領)と呼んだそうです。当時の黒人ジャズメンにはDuke Ellington(デューク・エリントン)のように公爵だとか、Count Basie(カウント・ベイシー)のように伯爵など貴族の爵位をステージネームに取り入れてています。
ビリー・ホリデイは歌うだけではなく作詞や作曲もしたそうです。 共同作品として1936年の”Billie’s Blues”、1939年の”Fine and Mellow”、1941年のGod Bless the Child”、当時結婚していたトロンボーン奏者のJimmy Monroe(ジミー・モンロー)の浮気を歌ったといわれる1944年にビリー・ホリデイが書いた”Don’t Explain”なども作ったそうです。1956年の”Lady Sings the Blues”は黒人ピアニストのHerbie Nichols()との共作だそうで同年リリースされたアルバムのタイトルとなっています。
Don’t Explain – All The Fine Young Cannibals – YouTube
ビリー・ホリデイの”Don’t Explain”が上記のビデオの映画「All The Fine Young Cannibals(夜が泣いている)」で使用されていたかは覚えがありませんが、トランペッターのChet Baker(チェット・ベイカー)をモデルにした1960年にNatalie Wood(ナタリー・ウッド)が主演した映画では、ルビー役の黒人ミュージカルスターのPearl Bailey(パール・ベイリー)がビリー・ホリデイの歌を真似たそうです。

Billie Holiday and The Jim Crow laws
映画ポスターを有名なデザイナーのBill Gold(ビル・ゴールド)が手掛けた1972年の伝記映画「Lady Sings The Blues(ビリー・ホリディ物語)」はビリー・ホリデイの自伝をもとにしたそうです。 その中でも描かれていたように当時のアメリカ南部の黒人が受けていたと同様にレスター・ヤングもビリー・ホリデイもThe Jim Crow laws(ジム・クロウ法)を嫌い、生涯闘い続けたそうです。 黒人から公衆施設の利用を制限するアラバマやミシシッピなどのアメリカ南部の州法であるジム・クロウ法は奴隷解放に反対する黒人差別の悪名高き掟で、1876年からCivil Rights Act(公民権法)が制定される1964年まで存在していました。 ホテルの宿泊から乗り物の席まで黒人を差別し、白人と黒人の結婚なんてもってのほかだったそうですから、黒人のビリー・ホリデイが白人のArtie Shaw(アーティ・ショー)楽団の専属歌手になった時も物議をかもし出したのだそうです。

Strange Fruit
試聴は国内盤の「奇妙な果実
ビリー・ホリデイがColumbia(コロンビア・レコード)で吹き込みをしていた頃に、Strange Fruit(奇妙な果実)という曲を取り上げましたが、コロンビアが南部に絡む曲だからとしりごみしたので共産党系のCommodore(コモドア)レーベルから1939年に”Fine and Mellow”と一緒にリリースされたそうです。 この曲は1930年に南部での白人による黒人リンチを写した1枚の写真を見たユダヤ人教師がペンネームで書いた詩「Bitter Fruits」を元にした胸をえぐるような歌です。 草の根的に歌われてきたこのBitter Fruitsをいくら先進的な客が多いクラブといえども公衆の面前で歌うには勇気が要ります。 黒人差別問題に敏感な時代のことですから、ビリー・ホリデイは報復におののきながらも1939年に初めてこの曲をナイトクラブ「Cafe Society(カフェ・ソサエティ)」で歌ったそうです。 その後”奇妙な果実”はビリー・ホリデイのテーマ曲となりました。 しかしビリー・ホリデイが晩年に語ったところによると、当時の人々が「奇妙な果実」の歌の意味を全く理解していないと嘆いたそうです。 だから迫害にも会わなかったのかも。 麻薬でボロボロになったビリー・ホリデイは公民権運動の成果をみずして亡くなりました。 1963年になって”A Change Is Gonna Come”を歌ったSam Cooke(サム・クック)もしかり、黒人差別を黒人がズバリと歌うわけには行かなかった時代でした。
Billie Holiday – Strange Fruit – YouTube
Billie Holiday singing Strange Fruit – YouTube
Southern trees bear strange fruit…と歌われた”Strange Fruit”の歌詞はStrange Fruit Lyrics – Genius.com

The United States vs. Billie Holiday (2021)
幼少期に虐待を受けたことがあるというジャーナリストのヨハン・ハリが書いた「麻薬と人間 100年の物語」を元にAndra Dayという歌手がビリー・ホリデイを演じてゴールデングローブ賞の主演女優賞を獲得した映画「ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ」が公開されました。 人種差別を歌った”奇妙な果実”が公民権運動を扇動するのではと懸念した政府がFBIにビリー・ホリデイの監視を命じ排除しようとしたのです。 送り込まれた囮捜査官もビリーの虜になるほど素晴らしかったのに麻薬禍で命を縮めてしまった天才黒人歌手の伝記映画です。

Alone (aka Left Alone) by Mal Waldron
1957年からビリー・ホリデイの最期まで伴奏者だったピアニストのMal Waldron(マル・ウォルドロン)は1957年の夏に開催されたNewport Jazz Festival ’57(ニューポート・ジャズ・フェスティヴァル)にも一緒に出演しました。 仕事に来ないビリーを訪ねていってビリーの死を知ったと言われているマル・ウォルドロンはビリーの死後の1959年に、ビリー・ホリデイが歌うつもりで作詞してそれにマル・ウォルドロンが曲をつけた”Left Alone(レフト・アローン)”をタイトルにしたアルバム”Left Alone”をビリー・ホリデイを偲んで制作しました。
マル・ウォルドロンのアルバムは、マル・ウォルドロンのピアノ演奏でオリジナル録音が1959年の「Left Alone」、同じくオリジナルは1959年のアルトサックス奏者のJackie McLean(ジャッキー・マクリーン)がビリーの歌う部分を演奏した「レフト・アローン」ではベースがJulian Euell(ジュリアン・ユーエル)でドラムがAl Dreares(アル・ドレアレス)です。 同じく「マル・ウォルドロン・フィーチャリング・ジャッキー・マクリーン」、テナーサックス奏者のArchie Shepp(アーチー・シェップ)との共演で2005年の「Left Alone Revisited: A Tribute to Billie Holiday」などがリリースされています。 ちなみに1986年の邦画「キャバレー」のテーマ曲として使用されたましが、このマル・ウォルドロンのレフト・アローンが人気なのは日本だけの現象なんだそうです。
ビリー・ホリデイが”Wheres the love thats made to fill my heart?…”と歌ったレフト・アローンの歌詞はLeft Alone Billie Holiday LyricsFreak
Left Alone – Mal Waldron and Jackie McLean (1960) – YouTube

若い時期から麻薬と酒の常習で不健康でしたが50年代後期は痩せて声のしゃがれ具合がひどくなっていました。 肺水腫と心臓疾患で亡くなる前年の1958年にステージで歌った”Don’t Explain”や1959年の”Strange Fruit”を聞くと胸が詰まる思いです。そのビリー・ホリデイの1936年のSummertimeやBillie’s Bluesから1941年のAm I Blue、そして1949年のCrazy He Calls Me までたくさんの曲が聴けるBillie Holiday – A Jazz Anthology(検索窓にBillie Holidayと入力)

Billie Holiday Collection (CD)
亡くなる前の1958年に”I’m a Fool to Want You(恋は愚かというけれど)”や”Glad To Be Unhappy(不幸でもいいの)”などを収録したアルバム「Lady in Satin」の他、ビリー・ホリデイのアルバムは大変多くて1000枚以上もあります。
試聴は国内盤のレディ・イン・サテン+4
ページトップのCD画像はビリー・ホリデイの正面顔がカバーに使用されたアルバム「The Billie Holiday Collection, Vol. 3」で、試聴はBillie Holiday Collection 3 [Original Recording Remastered] – Amazon.com
ビリー・ホリデイのアルバムでは「The Quintessential Billie Holiday, Vol.8」、「Billie Holiday – Billie’s Blues」、「Forever Gold 」などではカバー画像に珍しいカメラ目線に近い正面の写真が使用されています。
「The Billie Holiday Collection, Vol. 3」には”Strange Fruit(奇妙な果実)”は収録されていませんが、私の好きなHe’s Funny That Way、My Man、When a Woman Loves a Man、You Go to My Head、Very Thought of You、I Can’t Get Started、Night and Dayなどが試聴出来ます。
この Sony Jazzレーベルのアルバム・シリーズは初期のI Wished on the Moon、What a Little Moonlight Can Do、Miss Brown to You、These Foolish Things、I Cried for You、Summertimeなどのスウイング時代の垂涎の曲を収録した「The Billie Holiday Collection, Vol. 1 」と、 I Can’t Give You Anything But Love、I Must Have That Man!、Mean to Me、Easy Living、そしてビリー・ホリデイが初めてナイトクラブで歌ったというTrav’lin’ All Alone を収録した「The Billie Holiday Collection, Vol. 2」が見つかります。
アルバム「The Billie Holiday Collection」に収録されている曲目の歌詞はBillie Holiday Lyrics on Yahoo! Music
Billie Holiday – My Man – YouTube
Billie Holiday – You Go To My Head – YouTube
Billie Holiday – I Cried for You with Teddy Wilson (1936) – YouTube

Lady Day (Box set)
Strange Fruit(奇妙な果実)は入っていませんが、2枚組CDセットで、ディスク:1 にはWhat a Little Moonlight Can Do、These Foolish Things、 I Cried for You、Summertime、Billie’s Blues、Easy to Love、 I Must Have That Man!、Easy Living、When a Woman Loves a Man、You Go to My Head、My Manなど、ディスク:2 にはVery Thought of You、I Can’t Get Started、Long Gone Blues、Sugar、Man I Love、Body and Soul、Night and Day、Let’s Do It (Let’s Fall in Love)、God Bless the Child、Solitude、I Cover the Waterfront、Gloomy Sunday(暗い日曜日)、All of Me(オール・オブ・ミー)などが収録されています。
“All Of Me”は1931年にGerald MarksとSeymour Simonsが作った曲でビリー・ホリデイが歌って有名になった曲で、Ella Fitzgeraldも歌っていますが、男性歌手でもDean Martin、Frank Sinatra、Willie Nelsonが歌った他、Django Reinhardtのギター演奏も有名です。
Lady Day - Billie HolidayLady Day: The Best of Billie Holiday

Lady Day (CD)
Strange Fruit(奇妙な果実)をはじめ、ビリー・ホリデイが歌うスタンダード曲を集めた3枚組CDです。
Lady Day - Billie HolidayLady Day
1944年にデッカに移籍したビリー・ホリデイが最初に吹き込んだ”Lover Man”、デッカでのヒット曲の”Don’t Explain”、 “Willow Weep for Me”、”Stormy Weather”、”God Bless the Child”、”Yesterdays”、”Fine and Mellow”、”Sugar”、”St. Louis Blues”、”Am I Blue?”、”Body and Sou”l、”Solitude”、”Gloomy Sunday”など全42曲を収録した3枚組ボックスセットです。
全曲試聴はLady Day Lady Day [Box Set] – AllMusic.com
デッカでのヒット曲の”Good Morning Heartache”はアルバムの「Billie Holiday’s Greatest Hits (Decca)」に収録されています。
1930年から1940年代のコロンビアの録音から13曲を収録したお手頃なベスト盤アルバムには1998年にリリースされた「Greatest Hits」(ASIN: B00002554Q)があります。

♪ Billie Holiday – Body and Soul (Album includes Miss Brown to You、What a Little Moonlight Can Do、I Cried for You、Billie’s Blues、Sailboat in the Moonlight、I Can’t Get Started、When a Woman Loves a Man、Some Other Spring、Solitude、God Bless the Child、Gloomy Sunday、Very Thought of You、and Body and Soul)

ビリー・ホリデイが歌う”Love me or Leave me”はアルバムの「The Lady Sings The Blues」や「The Complete Billie Holiday On Verve 1945 – 1959」 などに収録されています。 Doris Day(ドリス・デイ)のバージョンでも有名なこの”Love me or Leave me”はWalter Donaldson(ウォルター・ドナルドソン)作曲Gus Kahn(ガス・カーン)作詞で1928年に「Whoopee!」というブロードウエイの舞台でRuth Etting(ルース・エッティング)によって歌われました。

Billie Holiday Autobiography: Lady Sings the Blues (Book)
Lady Sings the Blues BookLady Sings the Blues (Harlem Moon Classics)
※ビリー・ホリデイの自伝は記述に誤りが多かったのでそれらを手直しした”Lady Sings the Blues/With a Revised Discography”も出版されています。(どちらも英語)
※油井 正一と大橋 巨泉著の日本語版で「奇妙な果実―ビリー・ホリデイ自伝」も見つかります。

Movie: Billie Holiday in “New Orleans” (1947)
40年代に入って恋の遍歴と酒と麻薬漬けでハチャメチャナ生活を送っていたビリー・ホリデイでしたが、1947年にミュージカルドラマで、Storyvilleを描いたArthur Lubin(アーサー・ルービン)監督の白黒映画「New Orleans(ニューオリンズ)」でLouis Armstrong(ルイ・アームストロング)と共演しました。 映画にはWoody Herman(ウッディ・ハーマン)も出演し、Sammy Davis Jr.(サミー・デイヴィス・ジュニア)もチラリと登場します。 ハーレムのCotton Club(コットンクラブ)が白人専用のナイトクラブだったように、Storyville(The District)とは1897年から1917年まで黒人が働き白人だけが楽しむことができたニューオリンズの遊興施設(赤線地帯)です。 ちなみにアーサー・ルービンは1943年にNelson Eddy(ネルソン・エディ)が主演した「Phantom of the Opera(オペラの怪人)」の監督です。 映画「New Orleans(ニューオリンズ)」には女優は1951年にA Place In The Sun(陽のあたる場所)に出演したShelley Winters(シェリー・ウィンタース)が出演しています。
映画のテーマ曲となっている”Do You Know What It Means to Miss New Orleans”をビリー・ホリデイも歌った他、数曲をルイ・アームストロングとデュエットしています。 映画「ニューオリンズ」はDVD、VHSだと英語版の「New Orleans」と字幕版の「ニューオリンズ」が見つかります。
CD画像はありませんがオリジナル録音が1946年の映画「ニューオリンズ」のサウンドトラックの「New Orleans: The Soundtrackでは、West End Blues、Tiger Rag、Basin Street Blues、Beale Street Bluesなど良く知られた初期ブルースの全23曲が試聴出来ます。
Billie Holiday with Louis Armstrong (Satchmo) – The Blues Are Brewin’ – YouTube

Billie Holiday on CBS TV show (1957)
CBSTV番組で歌うビリー・ホリデイの映像には亡くなる2年前のテナーサックス奏者のLester Young(レスター・ヤング)をはじめ、テナーのBen Webster(ベン・ウェブスター)、同じくテナーのColeman Hawkins(コールマン・ホーキンス)、そしてバリトンサックスのGerry Mulligan(ジェリー・マリガン)、トランペッットのRoy Eldridge(ロイ・エルドリッジ)、ベースのMilt Hinton(ミルト・ヒントン)、ピアニストのMal Waldron(マル・ウォルドロン)などの豪華メンバーが演奏しています。
A Musical Romance
上記のアルバム同様にBenny Goodmanをはじめ、Lester Young、Teddy Wilson、Johnny Hodges、Roy Eldridgeなどがバックをつとめた1937年と1958年の録音16曲を集めたアルバムで、Man I LoveやI Must Have That Manに加えてBack in Your Own Back Yardも収録されています。

The Ladies Sing The Blues (1989) (DVD)
Bessie Smithをはじめ、上記のビリー・ホリデイの1957年の”Fine and Mellow”も収録されている白黒DVDは1930年代から1950年代までの偉大なる女性ジャズ・ヴォーカリスト達の記録映像集で、垂涎のアーティスト本人の演奏映像が観られます。
収録曲は”St. Louis Blues”がBessie Smith、”Darkies Never Dream”がEthel Waters、”Quicksand”もEthel Waters with Count Basie & His Orchestra、”Fine and Mellow“がBillie Holiday with Coleman Hawkins, Lester Young, Ben Webster, Roy Eldridge, and Gerry Mulligan、”When You Lose Your Money — Blues”がIda Cox with Jesse Crump、”That Lonesome Road”がSister Rosetta Tharp、”Nobody’s Sweetheart Now”がConnee Boswell、”Lean baby”がDinah Washington、””Only A Moment AgoもDinah Washington、”Have A Good Time”がRuth Brown、”The Man I Love(私の彼氏)”がLena Horne、”Unlucky Woman”もLena Horne with Teddy Wilson & His Orchestra、”You’re Mine You”がSarah Vaughan、”I Cried For You”がHelen Humes with Count Basie & His Orchestra、”Why Don’t You Do Right?(どうしてそんなに)”がPeggy Lee with Benny Goodman & His Orchestra、”I Cover The Waterfront”もPeggy Lee with Dave Barbour
ビリー・ホリデイのDVDには「ビリー・ホリデイの真実」というのもあります。

Movie: Diana Ross plays Billie Holiday in “Lady Sings The Blues” (1972)
ビリー・ホリデイの歌は良く知っていた私がビリーの生き様を知ったのは1972年の映画「Lady Sings The Blues(ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実)」でした。 ビリー・ホリデイの自伝をもとに伝記映画としてカナダ出身のSidney J. Furie(シドニー・J・フューリー)監督が映画化し、音楽にはフランスの音楽家のMichel Legrand(ミシェル・ルグラン)も関与しています。 ”Shop Around(ショップ・アラウンド)”のSmokey Robinson(スモーキー・ロビンソン)や”My Girl(マイ・ガール)”のThe Temptations(ザ・テンプテーションズ)などが在籍した初の黒人レーベルであるMotown Records(モータウン)が映画製作にも分野を広げて、The Supremes(スプリームス又はシュープリームス)のDiana Ross(ダイアナ・ロス)を出演させた映画です。
主役のビリー・ホリデイを演じたのは当時28歳のダイアナ・ロスで、ビリー・ホリディの持ち歌を劇中でダイアナ本人が歌いました。 主演のダイアナ・ロスは「ビリー・ホリディ物語」でアカデミーの主演女優賞にノミネートされた他、ゴールデン・グローブの有望若手女優賞を受賞しています。 私が映画を観ていて身につまされたのは場末の酒場で歌うビリー・ホリディが酔客からチップを股で挟んで受け取るように要求されたシーンとかホテルで同行の白人のバンドメンバーと別々になる人種差別の場面などです。 これじゃ麻薬や酒でも飲みたくなるかもと同情してしまいました。
Lady Sings The Blues (1972 Film) [Soundtrack]

Gardenias for Lady Day by James Carter
アヴァンギャルド系の灼熱のサキソフォン(ソプラノやテナーなど)奏者のジェームス・カーターがトリビュートした2000年のDjango Reinhardt(チェイシン・ザ・ジプシー)に続いて2003年にリリースしたアルバムはビリー・ホリデイを讃える「Gardenias for Lady Day」ですが中でも迫力のある”Strange Fruit(奇妙なか果実)”を「ガーデニア・フォー・レディ・デイ」(ASIN: B0000W3RTE)で試聴ができます。(ボーカルはMiche Braden)

ビリー・ホリデイ Billie Holiday」への2件のフィードバック

  1. まじろ より:

    ビリー・ホリデイ、最近は聴いていませんが、昔はけっこうよく聴いていました。部屋を薄暗くして、独りしんみりと聴くと、歌詞なんてわからないんですけど、切なさみたいなものが込み上げてきて・・・たまらないですね。
    彼女は”Lady Sings The Blues”と言われながら「意外と歌ったブルースは少ない」といった内容のことをジャズ評論家の油井正一氏がどっかで指摘していました。生涯にわたる楽曲について、その全容を聴き通していないんですが、たしかに、スタンダード曲が多いかも。
    結局、彼女の唄をブルースと思えば、そう聴けばいいだけの話なんですけど、世間、とくに日本でのジャンルはジャズ・ヴォーカルですから、かえって多くのファンを獲得できて彼女にとって幸いだったかも。(ブルースに分類されちゃあ目の当てられないくらい閑古鳥が鳴いたのでは?)
    ジャズか?ブルースか?って、いかにも日本人特有の不毛の議論でしかないですね。すみません。だけど、わたしのお気に入りの1曲、Billie’s Blues (Ilove My Man) なんかジャズやブル-スより、R&Bの原型を思わせる歌いっぷりなんですけど・・・どうも度し難き分類好きの日本人ですね、わたしは(笑)。では。

  2. koukinobaaba より:

    ”切なさみたいなものが込み上げてきて・・・”には大いに同感です。それと「まじろ」さんのおっしゃることはごもっともです。私は音楽のジャンルは区別がつかないで困っています。音楽的なことは知りませんが、ただ、”ビリー=ブルース”というのは、オリジナルの曲が殆どないビリーはどんなスタンダードジャズやポップスでもビリーが歌うと、ブルースにしてしまうような気がするからです。これはもしかすると日本流のブルース定義になるのかもしれません。
    「ヒットしなかったけれど、ちょっといい曲」の記事は知らないアーティストばかりで刺激になります。

コメントは受け付けていません。