Hates any man the thing he would not kill?
(嫌いなものは殺してしまう、それが人間のすることか?
憎けりゃ殺す、それが人間ってもんじゃないのかね (シャイロックの言葉)
William Shakespeare(ウィリアム・シェイクスピア)の喜劇の一つ、「ベニスの商人」は人間の残酷や貪欲をユダヤ人のシャイロック一人に被せた喜劇でもあり悲劇でもある物語です。 Michael Radfor(マイケル・ラドフォード)監督が重い題材をコミカルなシーンを借りて緩和しているのだそうですが、昨今問題のAnti-semitism(反ユダヤ主義)は特に考慮していないようです。 いや、ちょっとはしてるでしょう。
登場人物はイタリアの水の都と呼ばれるベネチアを舞台に商人のAntonio(アントーニオ)、強欲なユダヤ人の金貸しのShylock(シャイロック)、女相続人のPortia(ポーシャ)、高等遊民(学問が有るのにプー太郎)のBassanio(バサーニオ)などです。(江戸川乱歩の初期の作品の明智小五郎か? 明智は黒蜥蜴の木村功が良いか?) 裕福なポーシャを射止めるバサーニオを演じるのがイギリス俳優のRalph Fiennes(レイフ・ファインズ)の弟のJoseph Fiennes(ジョセフ・ファインズ)でちょっと目には超濃いキャラ過ぎでさほど好男子とも思えませんが、2001年の「Killing Me Softly(キリング・ミー・ソフトリー)」ではヒロインを虜にするミステリアスでセクシーな登山家を演じています。 2016年のテレビドラマ「Elizabeth, Michael and Marlon」マイケル・ジャクソンの伝記映画でマイケル役の候補に上がったとか。
さて、なぜユダヤ人がベニスにいるかというと元々は東欧に住んでいたのがイスラム圏となり迫害されてベニスにも逃げ延びてきたからだとか。 「貸した金を返せないなら肉を切り取って寄こせ!」と言うシャイロックのような商売上手なカナン系ユダヤ人の集まりの末裔には英国の大富豪のRothschild(ロスチャイルド)やアメリカ合衆国のRockefeller(ロックフェラー)などがいます。
もちろん、ユダヤ人の金貸しであるシャイロック役はAl Pacino(アルパチーノ)です。 アル・パチーノは1969年にはLooking For Richard(リチャードを探して)で監督及び出演しており、今後もシェークスピアの作品に興味を示しているそうです。 ちなみに「リチャードを探して」にはIsadora(イサドラ)のVanessa Redgrave(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)や1995年にIn THe Bleak Mid Winter(世にも憂鬱なハムレットたち)を監督したKenneth Branagh(ケネス・ブラナー)が出演しています。1993年の「Carlito’s Way(カリートの道)」では元麻薬王が人生を変えようと恋の逃避行を遂行する緊張感溢れる終盤を演じました。(ギャングに感情移入するなんて)
私は1989年の猟奇殺人の「Sea of Love(シー・オブ・ラブ)」が眼に焼き付いて・・・真犯人はどうでもよくなっちゃうエレン・バーキンとのあのシーン。 それから1990年に「Pretty Woman(プリティ・ウーマン)」のGarry Marshall(ゲイリー・マーシャル)監督のFrankie and Johnny(恋のためらい/フランキーとジョニー)でMichelle Pfeiffer(ミシェル・ファイファー)とのラブシーンが話題となったアルパチーノのバンダナ姿! 1992年にパチーノが盲目の退役軍人を演じてアカデミー賞の主演男優賞を受賞したMartin Brest(マーティン・ブレスト)監督の「Scent of a Woman(セント・オブ・ウーマン/夢の香り)」では盲目のフランク・スレイド大佐(パチーノ)がフェラーリを運転したり美女と究極のタンゴを踊ります。(エンディングの”A media luz”も素敵だがパチーノの踊るタンゴ”Por una Cabeza”のシーンは最高! 驚きのラストでパチーノの大演説) 1995年の「Get Shorty(ゲット・ショーティ)」でJohn Travolta(ジョン・トラボルタ)がアルパチーノの「Serpico(セルピコ)」で着用していたと同じ革コートを自慢していましたが、2001年の「Swordfish(ソードフィッシュ)」ではアルパチーノの出演作品に言及しています。 ニューヨーク大富豪トランプ氏のペントハウスロケが話題だった1997年の「The Devil’s Advocate(ディアボロス 悪魔の扉)」ではアルパチーノが悪魔のジョン・ミルトンを演じ「失楽園」風の長演説をぶちました。(法廷記者のラリーが時折するウィンクがミルトン似なのが気になったがやはり…) 超社会派映画の「The Insider(インサイダー)」ではタバコ会社の悪を暴く教授(ラッセル・クロウ)を支持する正義のジャーナリストを演じています。 私としては1989年にEllen Barkin(エレン・バーキン)と共演した「Sea of Love(シー・オブ・ラブ)」のパチーノが強烈です。
Jeremy Irons(ジェレミー・アイアンズ)はアントニオ(アントーニオ又はアントニーオ)役を演じます。 1967年のThe Graduate(卒業)や1969年のMidnight Cowboy(真夜中のカーボーイ)の名演技が忘れ難いDustin Hoffman(ダスティン・ホフマン)が出演を監督に打診した時点には、既にアル・パチーノに決定していたそうです。 残念でしたね。 当初Cate Blanchett(ケイト・ブランシェット)がPortia(ポーシャ)にキャスティングされていたそうですが妊娠のため降板して新人のLynn Collins(リン・コリンズ)になりました。 女相続人(金持ち)のポーシャは法学者に化けてシャイロックから主人公アントーニオを救う彼の婚約者です。 この男装の麗人ポーシャは「ベネチア物語」の姫(演・淡島千景)として宝塚の舞台でも演じられ、漫画家の手塚治虫が「リボンの騎士」に取り入れたのだとか。
The Merchant of Venice
1596年のヴェニスを舞台にした「ベニスの商人」は16世紀のスペインの音楽家でルネッサンスリュートと類似したビウエラ奏者のLuys de Narváez(ルイス・デ・ナルバエス)が作った曲”Ghetto”で始まります。 オープニングではテロップが流れます。「In the daytime any man leaving the getto had to wear a red hat to mark him as a Jew」
予告編が観られる「ベニスの商人」のオフィシャルサイトはThe Merchant of Venice Official Site (trailer) – MGM.com
The Merchant of Venice Trailer – SonyPictures
アメリカでは2004年12月に地域限定公開され、日本では2005年10月公開です。
マイケル・ラドフォード監督の「ベニスの商人」はVelasquez(ベラスケス)やRembrandt(レンブラント)、はたまたVermeer(フェルメール)など、15世紀から16世紀にかけフィレンツェを中心に展開したRenaissance(ルネッサンス)の絵画を見るような「16世紀のベニス」の描写とJocelyn Pook(ジョセリン・プーク)の音楽が観る人を近代ヨーロッパ初頭へといざなってくれるでしょう。
製作総指揮のトップになんとヘアー解禁も辞さないグラマー女優のEdwige Fenech(エドウィジュ・フェネシュ)の名前がクレジットされています。 1970年代にNando Cicelo(ナンド・チチェロ)監督の青春エロ映画「L’insegnante(青い経験)」シリーズやFranco Martinelli(フランコ・マルチネリ)監督の「Grazie… nonna(青い体験・禁じられた十代の好奇心)」の他、何本ものイタリアの犯罪映画に出演したアルジェリア出身の官能女優の誉れ高きあのエドウィジュ・フェネシュですが、「ベニスの商人」の後、2007年には製作総指揮に参加したQuentin Tarantino(クエンティン・タランティーノ)に乞われてEli Roth(イーライ・ロス)監督の拷問殺人ゲームのスプラッター映画「Hostel: Part II(ホステル2)」に美術の教授役で出演しました。
☆1969年にテレビ版として、一連のシェークスピア作品を撮ったオーソン・ウェルズが監督しシャイロックを自ら演じたThe Merchant of Venice(ベニスの商人)があります。
Orson Wells – The Merchant of Venice (1969) – YouTube
Al Pacino Returns in The Merchant of Venice on Broadway 2010
2010年10月から翌年1月までアル・パチーノがシャイロックを演じる「ベニスの商人」がブロードウエイで上演されます。 セントラルパークの野外劇場で無料公演されていたのですが大好評でプロダクション側がブロードハースト・シアターでの公演を決定したものだそうです。
英文ですが詳しくはAl Pacino on Broadway – Theater Reviews – New York Times.com
Pacino Wants to Be Fair to Shakespeare – Theater – New York Times.com
ページトップの画像は英語版(フランス語字幕)DVDですが、こちらは2006年発売の「ベニスの商人」の英語/日本語版(日本語字幕版)DVDです。
ヴェニスの商人
Serenade to Music
How Sweet The Moonlight Sleeps Upon This Bank…
(written by Jocelyn Pook and words by William Shakespeare for The Merchant of Venice)
「ベニスの商人」の音楽はJocelyn Pook(ジョセリン・プーク)ですが、上記のようにシェークスピアの詩、その他の歌にはEdgar Allan Poe(アラン・ポー)の詩に曲を付けました。
「Eyes Wide Shut(アイズ・ワイド・シャット)」や「L’emploi du temps(タイムアウト)」などのサウンドトラックを手掛けたジョセリン・プークのルネッサンスをモチーフにした美しく荘厳で、16世紀のシェークスピア物語に合った哀しくも感動的かつロマンティックな曲の数々はシェークスピアの信奉者には「お気に召す」かも。
The Merchant Of Venice
国内盤のサントラは「ヴェニスの商人 オリジナル・サウンドトラック」です。 Hayley Westenra(ヘイリー・ウェステンラ)のBridal Balladなどの歌も収録されています。
♪ 試聴はThe Merchant Of Venice CD – Bibliotheek.be
フジテレビ開局45周年記念ドラマ「白い巨塔」の主題歌に使用されたのはナナ・ムスクーリでも有名な”Amazing Grace(アメイジング・グレイス又は至上の愛)”ですが、歌っているHayley Westenra(ヘイリー・ウェステンラ)は2001年に14歳でデビューしたニュージーランドのクラシック歌手です。 アメイジング・グレイスは有名な賛美歌(第2編167番)でゴスペルシンガーのMarion Williams(マリオン・ウィリアムズ)やポップスのElvis Presley(エルヴィス・プレスリー)も歌っています。 作詞したのはイギリス協会聖職者のジョン・ニュートンだそうです。 2006年にこの曲の誕生の実話をもとに映画化された「アメイジング・グレイス」という奴隷貿易廃止をテーマにしたイギリス映画では、イギリスの政治家であるWilliam Wilberforce(ウィリアム・ウィルバーフォース)を主人公としています。 アルバート・フィニーが奴隷貿易に携わった後に回想録を書いたジョン・ニュートン、マイケル・ガンボンがチャールズ・フォックス卿、トビー・ジョーンズが王族議員のクラレンス公爵を演じています。
「アメイジング・グレイス」や「恋のからさわぎ」に使用されているWuthering Heightsが収録されているヘイリー・ウェステンラのアルバムは「Pure」です。
Audio-Visual Trivia内でジョセリン・プークが音楽を担当している映画はタイム・アウト L’emploi du temps